第7章 インスタンスのスケジューリングと配置の設定
Compute スケジューラーサービスは、インスタンスの配置先となるコンピュートノードまたはホストアグリゲートを決定します。Compute (nova) サービスがインスタンスの起動または移動に関するリクエストを受け取ると、リクエスト、フレーバー、およびイメージで提供される仕様を使用して適切なホストを決定します。たとえば、フレーバーでは、ストレージディスクの種別や Intel CPU 拡張命令セットなど、インスタンスがホストに要求する特性を指定することができます。
Compute スケジューラーサービスは、以下の順序で以下のコンポーネントの設定を使用して、インスタンスを起動または移動するコンピュートノードを決定します。
- Placement サービスのプレフィルター: Compute スケジューラーサービスは Placement サービスを使用して、特定の属性に基づいて候補のコンピュートノードのセットを絞り込みます。たとえば、Placement サービスは無効な状態のコンピュートノードを自動的に除外します。
- フィルター: Compute スケジューラーサービスは、これを使用してインスタンスを起動するコンピュートノードの初期セットを決定します。
- 重み: Compute スケジューラーサービスは、重み付けシステムを使用して絞り込まれたコンピュートノードの優先順位付けを行います。最も高い重みが最も優先されます。
下図では、絞り込み後、Host 1 および 3 が条件を満たしています。Host 1 の重みが最も高いため、スケジューリングで最も優先されます。
7.1. Placement サービスを使用した事前絞り込み
Compute サービス (nova) は、Placement サービスと協調してインスタンスを作成および管理します。Placement サービスは、コンピュートノード、共有ストレージプール、または IP 割り当てプールなど、リソースプロバイダーのインベントリーおよび使用状況、ならびに利用可能な仮想 CPU 数などのリソースの量的情報を追跡します。リソースの選択および消費を管理する必要があるサービスは、すべて Placement サービスを使用することができます。
Placement サービスは、リソースプロバイダーのストレージディスク特性の種別など、リソースの機能的情報とリソースプロバイダー間のマッピングも追跡します。
Placement サービスは、Placement サービスリソースプロバイダーインベントリーおよび特性に基づいて、候補のコンピュートノードセットにプレフィルターを適用します。以下の尺度に基づいてプレフィルターを作成することができます。
- サポートされるイメージ種別
- 特性
- プロジェクトまたはテナント
- アベイラビリティーゾーン
7.1.1. 要求されたイメージ種別のサポートによる絞り込み
インスタンスの起動に使用するイメージのディスク形式をサポートしないコンピュートノードを除外することができます。これは、環境の一時バックエンドに QCOW2 イメージをサポートしない Red Hat Ceph Storage が使用される場合に有用です。この機能を有効にすると、スケジューラーは QCOW2 イメージを使用するインスタンスの起動要求を Red Hat Ceph Storage ベースのコンピュートノードに送信しないようになります。
手順
- Compute 環境ファイルを開きます。
-
インスタンスの起動に使用するイメージのディスク形式をサポートしないコンピュートノードを除外するには、Compute 環境ファイルの
NovaSchedulerQueryImageType
パラメーターをTrue
に設定します。 - 更新内容を Compute 環境ファイルに保存します。
その他の環境ファイルと共に Compute 環境ファイルをスタックに追加して、オーバークラウドをデプロイします。
(undercloud)$ openstack overcloud deploy --templates \ -e [your environment files] \ -e /home/stack/templates/<compute_environment_file>.yaml
7.1.2. リソースプロバイダー特性による絞り込み
各リソースプロバイダーには特性のセットがあります。特性は、ストレージディスクの種別や Intel CPU 拡張命令セットなど、リソースプロバイダーの機能的な要素です。
コンピュートノードは、その機能を特性として Placement サービスに報告します。インスタンスは、要求する特性またはリソースプロバイダーにあってはいけない特性を指定することができます。Compute スケジューラーは、これらの特性を使用して、インスタンスをホストするのに適したコンピュートノードまたはホストアグリゲートを特定することができます。
クラウドユーザーが特定の特性を持つホストにインスタンスを作成できるようにするには、特定の特性を要求または禁止するフレーバーを定義して、その特性を要求または禁止するイメージを作成することができます。
利用可能な特性のリストは、os-traits
ライブラリー を参照してください。必要に応じて、カスタムの特性を作成することもできます。
7.1.2.1. リソースプロバイダー特性を要求または禁止するイメージの作成
クラウドユーザーが特定の特性を持つホストでインスタンスを起動するのに使用することのできるインスタンスイメージを作成することができます。
前提条件
-
Placement サービスにクエリーを行うには、アンダークラウドに
python3-osc-placement
パッケージをインストールします。
手順
新規イメージを作成します。
(overcloud)$ openstack image create ... trait-image
ホストまたはホストアグリゲートに必要な特性を識別します。既存の特性を選択するか、新たな特性を作成することができます。
既存の特性を使用するには、既存特性のリストを表示して特性名を取得します。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 trait list
新規特性を作成するには、以下のコマンドを入力します。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 trait \ create CUSTOM_TRAIT_NAME
カスタムの特性は接頭辞
CUSTOM_
で始まり、A から Z までの文字、0 から 9 までの数字、およびアンダースコア_だけを使用する必要があります。
各ホストの既存のリソースプロバイダー特性を収集します。
(overcloud)$ existing_traits=$(openstack --os-placement-api-version 1.6 resource provider trait list -f value <host_uuid> | sed 's/^/--trait /')
既存のリソースプロバイダー特性に、ホストまたはホストアグリゲートに必要な特性があることを確認します。
(overcloud)$ echo $existing_traits
必要な特性がまだリソースプロバイダーに追加されていない場合は、既存の特性と必要な特性を各ホストのリソースプロバイダーに追加してください。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 \ resource provider trait set $existing_traits \ --trait <TRAIT_NAME> \ <host_uuid>
<TRAIT_NAME>
を、リソースプロバイダーに追加する特性の名前に置き換えます。必要に応じて、--trait
オプションを複数回使用して、さらに特性を追加することができます。注記このコマンドは、リソースプロバイダーの特性をすべて置き換えます。したがって、ホスト上の既存のリソースプロバイダー特性のリストを取得して、削除されないように再度設定する必要があります。
要求された特性を持つホストまたはホストアグリゲートにインスタンスをスケジュールするには、イメージの追加スペックに特性を追加します。たとえば、AVX-512 をサポートするホストまたはホストアグリゲートにインスタンスをスケジュールするには、イメージの追加スペックに以下の特性を追加します。
(overcloud)$ openstack image set \ --property trait:HW_CPU_X86_AVX512BW=required \ trait-image
禁止された特性を持つホストまたはホストアグリゲートを除外するには、イメージの追加スペックに特性を追加します。たとえば、ボリュームの複数接続をサポートするホストまたはホストアグリゲートにインスタンスがスケジュールされるのを防ぐには、イメージの追加スペックに以下の特性を追加します。
(overcloud)$ openstack image set \ --property trait:COMPUTE_VOLUME_MULTI_ATTACH=forbidden \ trait-image
7.1.2.2. リソースプロバイダー特性を要求または禁止するフレーバーの作成
クラウドユーザーが特定の特性を持つホストでインスタンスを起動するのに使用することのできるフレーバーを作成することができます。
前提条件
-
Placement サービスにクエリーを行うには、アンダークラウドに
python3-osc-placement
パッケージをインストールします。
手順
フレーバーを作成します。
(overcloud)$ openstack flavor create --vcpus 1 --ram 512 \ --disk 2 trait-flavor
ホストまたはホストアグリゲートに必要な特性を識別します。既存の特性を選択するか、新たな特性を作成することができます。
既存の特性を使用するには、既存特性のリストを表示して特性名を取得します。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 trait list
新規特性を作成するには、以下のコマンドを入力します。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 trait \ create CUSTOM_TRAIT_NAME
カスタムの特性は接頭辞
CUSTOM_
で始まり、A から Z までの文字、0 から 9 までの数字、およびアンダースコア_だけを使用する必要があります。
各ホストの既存のリソースプロバイダー特性を収集します。
(overcloud)$ existing_traits=$(openstack --os-placement-api-version 1.6 resource provider trait list -f value <host_uuid> | sed 's/^/--trait /')
既存のリソースプロバイダー特性に、ホストまたはホストアグリゲートに必要な特性があることを確認します。
(overcloud)$ echo $existing_traits
必要な特性がまだリソースプロバイダーに追加されていない場合は、既存の特性と必要な特性を各ホストのリソースプロバイダーに追加してください。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 \ resource provider trait set $existing_traits \ --trait <TRAIT_NAME> \ <host_uuid>
<TRAIT_NAME>
を、リソースプロバイダーに追加する特性の名前に置き換えます。必要に応じて、--trait
オプションを複数回使用して、さらに特性を追加することができます。注記このコマンドは、リソースプロバイダーの特性をすべて置き換えます。したがって、ホスト上の既存のリソースプロバイダー特性のリストを取得して、削除されないように再度設定する必要があります。
要求された特性を持つホストまたはホストアグリゲートにインスタンスをスケジュールするには、フレーバーの追加スペックに特性を追加します。たとえば、AVX-512 をサポートするホストまたはホストアグリゲートにインスタンスをスケジュールするには、フレーバーの追加スペックに以下の特性を追加します。
(overcloud)$ openstack flavor set \ --property trait:HW_CPU_X86_AVX512BW=required \ trait-flavor
禁止された特性を持つホストまたはホストアグリゲートを除外するには、フレーバーの追加スペックに特性を追加します。たとえば、ボリュームの複数接続をサポートするホストまたはホストアグリゲートにインスタンスがスケジュールされるのを防ぐには、フレーバーの追加スペックに以下の特性を追加します。
(overcloud)$ openstack flavor set \ --property trait:COMPUTE_VOLUME_MULTI_ATTACH=forbidden \ trait-flavor
7.1.3. ホストアグリゲートの分離による絞り込み
ホストアグリゲートへのスケジューリングを、フレーバーおよびイメージの特性がホストアグリゲートのメタデータと一致するインスタンスだけに制限することができます。フレーバーとイメージのメタデータの組み合わせでは、そのホストアグリゲートに属するコンピュートノードへのスケジューリングを有効にするホストアグリゲート特性をすべて要求する必要があります。
前提条件
-
Placement サービスにクエリーを行うには、アンダークラウドに
python3-osc-placement
パッケージをインストールします。
手順
- Compute 環境ファイルを開きます。
-
ホストアグリゲートを分離してフレーバーおよびイメージの特性がアグリゲートのメタデータと一致するインスタンスだけをホストするには、Compute 環境ファイルの
NovaSchedulerEnableIsolatedAggregateFiltering
パラメーターをTrue
に設定します。 - 更新内容を Compute 環境ファイルに保存します。
その他の環境ファイルと共に Compute 環境ファイルをスタックに追加して、オーバークラウドをデプロイします。
(undercloud)$ openstack overcloud deploy --templates \ -e [your environment files] \ -e /home/stack/templates/<compute_environment_file>.yaml
ホストアグリゲートを分離する対象の特性を特定します。既存の特性を選択するか、新たな特性を作成することができます。
既存の特性を使用するには、既存特性のリストを表示して特性名を取得します。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 trait list
新規特性を作成するには、以下のコマンドを入力します。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 trait \ create CUSTOM_TRAIT_NAME
カスタムの特性は接頭辞
CUSTOM_
で始まり、A から Z までの文字、0 から 9 までの数字、およびアンダースコア_だけを使用する必要があります。
各コンピュートノードの既存のリソースプロバイダー特性を収集します。
(overcloud)$ existing_traits=$(openstack --os-placement-api-version 1.6 resource provider trait list -f value <host_uuid> | sed 's/^/--trait /')
既存のリソースプロバイダー特性で、ホストアグリゲートを分離する特性を確認します。
(overcloud)$ echo $existing_traits
必要な特性がまだリソースプロバイダーに追加されていない場合は、既存の特性と必要な特性をホストアグリゲートの各コンピュートノードのリソースプロバイダーに追加してください。
(overcloud)$ openstack --os-placement-api-version 1.6 \ resource provider trait set $existing_traits \ --trait <TRAIT_NAME> \ <host_uuid>
<TRAIT_NAME>
を、リソースプロバイダーに追加する特性の名前に置き換えます。必要に応じて、--trait
オプションを複数回使用して、さらに特性を追加することができます。注記このコマンドは、リソースプロバイダーの特性をすべて置き換えます。したがって、ホスト上の既存のリソースプロバイダー特性のリストを取得して、削除されないように再度設定する必要があります。
- ホストアグリゲートに属する各コンピュートノードで、ステップ 6 - 8 を繰り返します。
特性のメタデータ属性をホストアグリゲートに追加します。
(overcloud)$ openstack --os-compute-api-version 2.53 aggregate set \ --property trait:<TRAIT_NAME>=required <aggregate_name>
フレーバーまたはイメージに特性を追加します。
(overcloud)$ openstack flavor set \ --property trait:<TRAIT_NAME>=required <flavor> (overcloud)$ openstack image set \ --property trait:<TRAIT_NAME>=required <image>
7.1.4. Placement サービスを使用したアベイラビリティーゾーンによる絞り込み
Placement サービスを使用して、アベイラビリティーゾーンの要求を適用することができます。Placement サービスを使用してアベイラビリティーゾーンで絞り込むには、アベイラビリティーゾーンホストアグリゲートのメンバーシップおよび UUID と一致する配置アグリゲートが存在する必要があります。
前提条件
-
Placement サービスにクエリーを行うには、アンダークラウドに
python3-osc-placement
パッケージをインストールします。
手順
- Compute 環境ファイルを開きます。
-
Placement サービスを使用してアベイラビリティーゾーンで絞り込むには、Compute 環境ファイルの
NovaSchedulerQueryPlacementForAvailabilityZone
パラメーターをTrue
に設定します。 -
NovaSchedulerDefaultFilters
パラメーターからAvailabilityZoneFilter
フィルターを削除します。 - 更新内容を Compute 環境ファイルに保存します。
その他の環境ファイルと共に Compute 環境ファイルをスタックに追加して、オーバークラウドをデプロイします。
(undercloud)$ openstack overcloud deploy --templates \ -e [your environment files] \ -e /home/stack/templates/<compute_environment_file>.yaml
関連情報
- アベイラビリティーゾーンとして使用するホストアグリゲートの作成に関する詳細は、Creating an availability zone を参照してください。