第1章 概要
Red Hat Enterprise Linux 6 の改良過程におけるフォーカスのひとつが電力管理です。コンピュータシステムが使用する電力の制限は、 グリーン IT (環境に優しいコンピューティング) という側面からも最も重要な課題のひとつとなります。このグリーン IT は、リサイクル可能な資源の利用、ハードウェアの製造により環境に及ぼす影響、システム設計と導入における環境意識などの点についても配慮しています。本ガイドでは、 Red Hat Enterprise Linux 6 が稼働するシステムでの電力管理について説明しています。
1.1. 電力管理の重要性
電力管理の中核は、各システムコンポーネントによるエネルギー消費を効果的に最適化する方法を理解するところにあります。そのためには、システムが実行するさまざまなタスクを調査し、そのパフォーマンスがジョブに適したものになるよう各コンポーネントの設定を行う必要があります。
電力管理を行う主な要因は、
- 全体的な消費電力を抑えてコストを削減することです。
電力管理を適切に活用すると、以下のような結果が得られます。
- サーバーおよびコンピューティングセンターの冷却
- 冷却、空間、ケーブル、発電機、無停電電源装置 (UPS) などにかかる二次コストの削減
- ノート PC のバッテリー寿命の延長
- 二酸化炭素排出量の低減
- エナジースター (Energy Star) などグリーン IT に関する政府の規則、または法的要件への適合
- 新システムにおける企業のガイドラインへの適合
通常、あるコンポーネント (またはシステム全体) の電力消費量を抑えようとすると、発生熱量が低下するため、必然的にパフォーマンスの低下につながります。そのため、特にミッションクリティカルなシステムの場合、設定変更でもたらされるパフォーマンスの低下については十分な調査と検証を行なってください。
システムが実行する様々なタスクを調査し、そのパフォーマンスがジョブに適したパフォーマンスとなるよう各コンポーネントを設定することで、エネルギーを節約し、発生熱を低減し、ノート PC のバッテリー寿命を最適化することができます。電力消費量に関するシステムの分析とチューニングに関する原則の多くは、パフォーマンスのチューニングの原則と同様のものです。システムの最適化は通常、パフォーマンスまたは電力のいずれかに対して行なわれるため、電力管理とパフォーマンスのチューニングは、ある程度、システム構成の上で正反対となるアプローチになると言えます。本ガイドでは、電力管理で役に立つ Red Hat 提供のツール、そして Red Hat で開発された技術について説明していきます。
Red Hat Enterprise Linux 6 には、デフォルトで有効になっている多くの新しい電力管理機能が既に同梱されています。これらはすべて、サーバーやデスクトップの標準的な使用ではパフォーマンスに影響を及ぼさないものとして選択されています。しかし、最大のスループットや最小限の遅延、最大の CPU パフォーマンスなど、非常に特殊な使用が絶対的に必要とされるような場合は、デフォルト設定の再検討が必要となる可能性があります。
以下の質問とその答えをお読みいただいた上で、 本ガイドで説明している技術を使用してマシンを最適化すべきかどうかを判断してください。
- 問: マシンを最適化すべきですか ?
- 問: どの程度、最適化する必要がありますか ?
- 問: 最適化によりシステムパフォーマンスが許容範囲を下回りませんか ?
- 問: 最適化に時間とリソースを費した場合、そこから得られる結果より負担の方が大きくなってしまいませんか ?
問:
マシンを最適化すべきですか ?
答:
電力を最適化する重要性は、お客様に従うべきガイドラインがあるか、または順守すべき規則があるかによって変わってきます。
問:
どの程度、最適化する必要がありますか ?
答:
ここで紹介している技術の中には、マシンを詳しく監査、分析する行程すべてを通して行なう必要がなく、その代わりに電力の使用を標準的に改善する全般的な最適化を行なえばよいものがあります。もちろん手作業で行うシステム監査と最適化ほど優れてはいませんが、適度な効果はあります。
問:
最適化によりシステムパフォーマンスが許容範囲を下回りませんか ?
答:
本ガイドで説明している技術のほとんどがシステムパフォーマンスに明らかな影響を与えます。Red Hat Enterprise Linux 6 に既に設定されているデフォルトを越える電力管理を実装させる場合は、電力最適化の実行後、システムパフォーマンスを監視してパフォーマンスの低下が許容範囲内であるか判断する必要があります。
問:
最適化に時間とリソースを費した場合、そこから得られる結果より負担の方が大きくなってしまいませんか ?
答:
1 台のシステムに対して全行程を手作業で行なっていく最適化については、費される時間とコストが 1 台のマシンの寿命が尽きるまでに得られるであろう恩恵をはるかに上回ってしまうため、一般的には意味がありません。一方、例えば 1 万台のデスクトップシステムに同じ構成と設定を持たせて、複数のオフィスへの実装を展開する場合には、最適化した設定をひとつ構成してそれを 1 万台すべてのマシンに適用していけば十分に役立つ可能性が高くなります。
次のセクションでは、最適なハードウェアのパフォーマンスがエネルギー消費の観点でどのようにシステムに恩恵をもたらすのかについて解説していきます。