3.2. ダイレクトルーティングを使用するロードバランサー


ダイレクトルーティングを使用すると、実サーバーは LVS ルーターを介して送信パケットを渡さずに、直接パケットを処理して要求元ユーザーにルーティングできます。ダイレクトルーティングでは、実サーバーが LVS ルーターがあるネットワークセグメントに物理的に接続している必要があり、送信パケットを処理およびルーティングできる必要があります。
ネットワークレイアウト
ダイレクトルーティングのロードバランサー設定では、LVS ルーターが受信要求を受け取り、要求を処理する適切な実サーバーへルーティングする必要があります。その後、実サーバーは応答を直接クライアントへルーティングする必要があります。たとえば、クライアントがインターネット上にあり、LVS ルーター経由でパケットを実サーバーへ送信する場合、実サーバーはインターネット経由で直接クライアントに接続できる必要があります。これを実現するには、実サーバーのゲートウェイを設定し、パケットをインターネットに渡します。サーバープールの各サーバーは独自のゲートウェイを持ちます (各ゲートウェイはインターネットへの独自の接続を持ちます)。そのため、スループットやスケーラビリティーを最大限にします。しかし、一般的なロードバランサーの設定では実サーバーは 1 つのゲートウェイ (よって 1 つのネットワーク接続) を経由して通信できます。
ハードウェア
ダイレクトルーティングを使用するロードバランサーシステムのハードウェア要件は、他のロードバランサートポロジーと似ています。LVS ルーターは Red Hat Enterprise Linux を実行して受信要求を処理し、実サーバーの負荷分散を実行する必要がありますが、実サーバーが適切に機能するには Linux マシンである必要はありません。各 LVS ルーターには 1 つまたは 2 つの NIC が必要です (バックアップルーターがあるかによって異なります)。NIC を 2 つ使用すると設定が容易になり、受信要求は 1 つの NIC によって処理され、別の NIC によってパケットが実サーバーへルーティングされるため、トラフィックを区別できます。
実サーバーは LVS ルーターを迂回して送信パケットを直接クライアントに送信するため、インターネットへのゲートウェイが必要となります。パフォーマンスと可用性を最大化するには、クライアントが接続しているネットワーク (インターネットやイントラネットなど) に専用接続がある独自のゲートウェイに実サーバーを接続します。
ソフトウェア
ダイレクトルーティングでロードバランサーを使用するときに ARP の問題が発生する場合は特に、keepalived 以外の設定を行う必要があります。詳細は 「arptables を使用したダイレクトルーティング」 または 「iptables を使用したダイレクトルーティング」 を参照してください。

3.2.1. arptables を使用したダイレクトルーティング

arptables を使用してダイレクトルーティングを設定するには、実サーバーで仮想 IP アドレスが設定され、直接パケットをルーティングできる必要があります。VIP の ARP 要求は実サーバーによって完全に無視されます。VIP を含む送信される ARP パケットは、VIP ではなく実サーバーの IP が含まれるよう分割されます。
arptables メソッドを使用すると、アプリケーションを実サーバーが接続する個別の仮想 IP アドレスまたはポートにバインドすることができます。たとえば、arptables メソッドを使用すると Apache HTTP Server の複数のインスタンスを実行し、システム上の異なる仮想 IP アドレスに明示的にバインドすることができます。
しかし、arptables メソッドを使用すると、標準の Red Hat Enterprise Linux システム設定ツールを使用して起動時に仮想 IP アドレスを開始する設定ができません。
それぞれの仮想 IP アドレスの ARP 要求を無視するように実サーバーを設定するには、以下の手順を実行します。
  1. 実サーバー上で仮想 IP アドレスの ARP テーブルのエントリーを作成します (real_ip とは実サーバーとの通信にディレクターが使用する IP のことで、多くの場合、eth0 にバインドされた IP です)。
    arptables -A IN -d <virtual_ip> -j DROP
    arptables -A OUT -s <virtual_ip> -j mangle --mangle-ip-s <real_ip>
    
    これにより、仮想 IP アドレス向けのすべての ARP 要求を実サーバーが無視するようになります。また、他の方法では仮想 IP を含むことになる送信 ARP 反応を変更させて、それらがサーバーの実 IP を含むようになります。VIP の ARP 要求に反応する唯一のノードは、現在アクティブな LVS ノードです。
  2. これが実サーバー上で完了したら、実サーバー上で以下のコマンドを入力して ARP テーブルのエントリーを保存します。
    arptables-save > /etc/sysconfig/arptables
    systemctl enable arptables.service
    systemctl enable コマンドは、ネットワーク開始前にシステムが起動時に arptables 設定をリロードするようにします。
  3. ip addr コマンドを使用してすべての実サーバーに仮想 IP アドレスを設定し、IP エイリアスを作成します。以下に例を示します。
    # ip addr add 192.168.76.24 dev eth0
  4. ダイレクトルーティングを Keepalived に設定します。これは、lb_kind DRkeepalived.conf ファイルに追加することで実行できます。詳細は、4章Keepalived を用いたロードバランサーの初期設定 を参照してください。

3.2.2. firewalld を使用したダイレクトルーティング

firewalld でファイアウォールルールを作成することで、ダイレクトルーティングメソッドを使用した場合の ARP 問題を回避することもできます。firewalld を使用してダイレクトルーティングを設定するには、仮想 IP アドレスがシステム上に存在しなくても仮想 IP アドレスに送信されたパケットを実サーバーが扱うように透過プロキシーを作成するルールを追加する必要があります。
firewalld メソッドは arptables メソッドよりも設定が簡単です。単一または複数の仮想 IP アドレスがアクティブ LVS ディレクター上にのみ存在するため、このメソッドでは LVS ARP 問題も完全に回避できます。
しかし、パケットが返されるたびにオーバーヘッドが発生するため、firewalld メソッドは arptables と比較してパフォーマンスに大きく影響します。
また、firewalld メソッドを使用してポートを再利用することはできません。たとえば、2 つの別々の Apache HTTP Server サービスは両方とも仮想 IP アドレスではなく INADDR_ANY にバインドする必要があるため、ポート 80 にバインドされた 2 つの別々の Apache HTTP Server サービスを実行することはできません。
firewalld メソッドを使用してダイレクトルーティングを設定するには、すべての実サーバーで以下の手順を実行してください。
  1. firewalld が実行されていることを確認します。
    # systemctl start firewalld
    firewalld がシステム起動時に開始するように有効化されていることを確認します。
    # systemctl enable firewalld
  2. 実サーバーに対して処理されるすべての VIP、ポート、プロトコル (TCP または UDP) の組み合わせに以下のコマンドを使用します。このコマンドで、実サーバーは与えられた VIP とポートが宛先となっているパケットを処理します。
    # firewall-cmd --permanent --direct --add-rule ipv4 nat PREROUTING 0 -d vip -p tcp|udp -m tcp|udp --dport port -j REDIRECT
  3. ファイアウォールルールを再読み込みし、状態情報を維持します。
    # firewall-cmd --reload
    現在の永続的設定は、新しい firewalld ランタイム設定と次回のシステム起動時の設定となります。

3.2.3. iptables を使用したダイレクトルーティング

iptables ファイアウォールルールを作成することで、ダイレクトルーティングメソッドを使用した場合の ARP 問題を回避することもできます。iptables を使用してダイレクトルーティングを設定するには、仮想 IP アドレスがシステム上に存在しなくても仮想 IP アドレスに送信されたパケットを実サーバーが扱うように透過プロキシーを作成するルールを追加する必要があります。
iptables メソッドは arptables メソッドよりも設定が簡単です。仮想 IP アドレスがアクティブ LVS ディレクター上にのみ存在するため、このメソッドでは LVS ARP 問題も完全に回避できます。
しかし、パケットが転送またはマスカレードされるたびにオーバーヘッドが発生するため、iptables メソッドは arptables と比較してパフォーマンスに大きく影響します。
また、iptables メソッドを使用してポートを再利用することはできません。たとえば、2 つの別々の Apache HTTP Server サービスは両方とも仮想 IP アドレスではなく INADDR_ANY にバインドする必要があるため、ポート 80 にバインドされた 2 つの別々の Apache HTTP Server サービスを実行することはできません。
iptables メソッドを使用してダイレクトルーティングを設定するには、以下の手順を実行します。
  1. 実サーバー上で、実サーバーに対応する目的の VIP、ポート、およびプロトコル (TCP または UDP) の組み合わせすべてに対して、以下のコマンドを実行します。
    iptables -t nat -A PREROUTING -p <tcp|udp> -d <vip> --dport <port> -j REDIRECT
    このコマンドで、実サーバーは与えられた VIP とポートが宛先となっているパケットを処理します。
  2. 実サーバー上で設定を保存します。
    # iptables-save > /etc/sysconfig/iptables
    # systemctl enable iptables.service
    systemctl enable コマンドは、ネットワーク開始前にシステムが起動時に iptables 設定をリロードするようにします。

3.2.4. sysctl を用いたダイレクトルーティング

sysctl インターフェイスを使用して、ダイレクトルーティングの使用時に ARP の制限に対処することもできます。管理者は 2 つの systcl 設定を行い、実サーバーが ARP 要求で仮想 IP アドレスをアナウンスしないようにし、仮想 IP アドレスの ARP 要求へ応答しないようにします。この動作を有効にするには、以下のコマンドを実行します。
echo 1 > /proc/sys/net/ipv4/conf/eth0/arp_ignore
echo 2 > /proc/sys/net/ipv4/conf/eth0/arp_announce
この代わりに、以下の行を /etc/sysctl.d/arp.conf ファイルに追加することもできます。
net.ipv4.conf.eth0.arp_ignore = 1
net.ipv4.conf.eth0.arp_announce = 2
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