16.4. GDB で互換性に影響を与える変更
Red Hat Enterprise Linux 8 で提供される GDB のバージョンは、特に GDB の出力が端末から直接読み込まれる場合に、互換性に影響を与える変更が多数含まれています。次のセクションは、この変更の詳細を提供します。
GDB の出力の解析は推奨されません。Python GDB API または GDB Machine Interface (MI) を使用するスクリプトが推奨されます。
GDBserver がシェルで inferior を開始
inferior コマンドライン引数で拡張や変数置換を有効にするために、GDBserver では、GDB と同じように、シェルで inferior を開始するようになりました。
シェルを使用して無効にするには、以下を行います。
-
GDB コマンド
target extended-remote
を使用する場合は、set startup-with-shell off
コマンドでシェルが無効になります。 -
GDB コマンド
target remote
を使用する場合は、GDBserver の--no-startup-with-shell
オプションでシェルが無効になります。
例16.1 リモートの GDB inferior へのシェル拡張例
この例は、GDBserver から /bin/echo /*
コマンドを実行する方法が Red Hat Enterprise Linux versions 7 および 8 でどのように異なるかを示します。
RHEL 7 の場合:
$ gdbserver --multi :1234 $ gdb -batch -ex 'target extended-remote :1234' -ex 'set remote exec-file /bin/echo' -ex 'file /bin/echo' -ex 'run /*' /*
RHEL 8 の場合:
$ gdbserver --multi :1234 $ gdb -batch -ex 'target extended-remote :1234' -ex 'set remote exec-file /bin/echo' -ex 'file /bin/echo' -ex 'run /*' /bin /boot (...) /tmp /usr /var
gcj
サポートが削除される
Java 用の GNU Compiler でコンパイルされた Java プログラムをデバッグへの対応 (gcj
) が削除されました。
シンボルのダンプのメンテナンスコマンドの新しい構文
シンボルのダンプのメンテナンスコマンド構文に、ファイル名の前にオプションが追加されました。これにより、RHEL 7 の GDB で機能するコマンドが、RHEL 8 では機能しなくなりました。
例として、次のコマンドはファイルにシンボルを格納しませんが、エラーメッセージを生成します。
(gdb) maintenance print symbols /tmp/out main.c
シンボルのダンプのメンテナンスコマンドの新しい構文は、以下のようになります。
maint print symbols [-pc address] [--] [filename] maint print symbols [-objfile objfile] [-source source] [--] [filename] maint print psymbols [-objfile objfile] [-pc address] [--] [filename] maint print psymbols [-objfile objfile] [-source source] [--] [filename] maint print msymbols [-objfile objfile] [--] [filename]
スレッド番号がグローバルではなくなる
GDB は、グローバルのスレッド番号設定のみを使用していました。番号設定は、inferior_num.thread_num
の形式 (2.1
など) で、inferior ごとに表示されるように拡張されました。そのため、利便性に関する変数 $_thread
と、Python 属性 InferiorThread.num
のスレッド番号が、inferior の間で一意ではなくなりました。
GDB は、スレッドごとに、グローバルスレッド ID と呼ばれる 2 番目のスレッド ID を格納します。これは、以前のリリースのスレッド番号と同等の、新規のものになります。グローバルスレッド番号にアクセスするには、利便性に関する変数 $_gthread
および Python 属性 InferiorThread.global_num
を使用します。
後方互換性の場合は、Machine Interface (MI) のスレッド ID に、常にグローバル ID が含まれます。
例16.2 GDB スレッド番号変更の例
Red Hat Enterprise Linux 7 の場合:
# debuginfo-install coreutils $ gdb -batch -ex 'file echo' -ex start -ex 'add-inferior' -ex 'inferior 2' -ex 'file echo' -ex start -ex 'info threads' -ex 'pring $_thread' -ex 'inferior 1' -ex 'pring $_thread' (...) Id Target Id Frame * 2 process 203923 "echo" main (argc=1, argv=0x7fffffffdb88) at src/echo.c:109 1 process 203914 "echo" main (argc=1, argv=0x7fffffffdb88) at src/echo.c:109 $1 = 2 (...) $2 = 1
Red Hat Enterprise Linux 8 の場合:
# dnf debuginfo-install coreutils $ gdb -batch -ex 'file echo' -ex start -ex 'add-inferior' -ex 'inferior 2' -ex 'file echo' -ex start -ex 'info threads' -ex 'pring $_thread' -ex 'inferior 1' -ex 'pring $_thread' (...) Id Target Id Frame 1.1 process 4106488 "echo" main (argc=1, argv=0x7fffffffce58) at ../src/echo.c:109 * 2.1 process 4106494 "echo" main (argc=1, argv=0x7fffffffce58) at ../src/echo.c:109 $1 = 1 (...) $2 = 1
値の中身に対するメモリーが制限される
GDB は、以前は、値のコンテンツに割り当てられるメモリー量に制限を課していませんでした。その結果、誤ったプログラムをデバッグすると、GDB が割り当てるメモリー量が多くなりすぎていました。割り当てたメモリーの量を制限できるように、max-value-size
設定が追加されました。この制限のデフォルト値は 64 KiB です。これにより、Red Hat Enterprise Linux 8 の GDB では、表示される値が大きくなりすぎることはありませんが、その値が大きすぎることが報告されます。
たとえば、char s[128*1024];
と定義された値を出力すると、異なる結果が生成されます。
-
Red Hat Enterprise Linux 7 では、
$1 = 'A' <repeats 131072 times>
となります。 -
Red Hat Enterprise Linux 8 では、
value requires 131072 bytes, which is more than max-value-size
(値には 131072 バイトが必要ですが、この値は max-value-size を超えています) と表示されます。
スタブ形式の Sun のバージョンがサポート対象外になる
Sun バージョンの stabs
デバッグファイルフォーマットに対応しなくなりました。RHEL で gcc -gstabs
オプションを使用して GCC が生成した stabs
フォーマットは、GDB でも引き続きサポートされます。
Sysroot 処理変更
set sysroot path
コマンドは、デバッグに必要なファイルを検索する際にシステムルートを指定します。このコマンドに適用したディレクトリー名は、文字列 target:
の接頭辞になり、GDB が、(ローカルおよびリモートの) ターゲットシステムの共有ライブラリーを読み込みます。以前は利用できた remote:
接頭辞は、target:
として扱われるようになりました。さらに、デフォルトのシステム root の値は、後方互換性として、空の文字列から target:
に変更になりました。
GDB がリモートのプロセスを開始したり、すでに実行しているプロセス (ローカルおよびリモートの両方) に接続する際に、指定したシステムの root が、主な実行ファイルのファイル名の先頭に追加されます。これは、プロセスがリモートの場合に、デフォルト値 target:
が、GDB がリモートシステムからデバッグ情報を読み込もうとすることを示しています。これが発生しないようにするには、target remote
コマンドの前に set sysroot
コマンドを実行して、ローカルのシンボルファイルが、リモートのファイルが見つかるよりも早く見つかるようにします。
HISTSIZE が GDB コマンドの履歴サイズを制御しなくなる
HISTSIZE
環境変数に使用されている GDB は、コマンド履歴がどのぐらい保存されるかを指定していました。代わりに GDBHISTSIZE
環境変数が使用されるように変更になりました。この変数は、GDB に固有になります。可能な値とその効果は次のとおりです。
- 正の数 - このサイズのコマンド履歴を使用
-
-1
または空の文字列 - コマンド履歴をすべて保持 - 数値以外の値 - 無視
完了制限が追加される
set max-completions
コマンドを使用して、完了時に検討される候補の最大値が制限されるようになりました。現在の制限を表示するには、show max-completions
コマンドを実行します。デフォルト値は 200 です。この制限により、GDB が、生成する完了リストが大きすぎて、応答しなくならないようにします。
たとえば、p <tab><tab>
の入力後の出力は、以下のようになります。
-
RHEL 7 の場合 -
Display all 29863 possibilities? (y or n)
-
RHEL 8 の場合 -
Display all 200 possibilities? (y or n)
HP-UX XDB 互換性モードが削除される
HP-UX XDB 互換性モードの -xdb
オプションが GDB から削除されています。
スレッドのシグナル処理
GDB は、シグナルが実際に送信されるスレッドの代わりに、現在のスレッドへシグナルを配信していました。このバグは修正され、実行を再開する際に GDB が現在のスレッドへ、常にシグナルを渡すようになりました。
また、signal
コマンドは、現在のスレッドに、必要なシグナルを常に正しく配信するようになりました。シグナルに対してプログラムが停止したり、ユーザーがスレッドを切り替えた場合は、GDB により確認が求められます。
ブレークポイントモードが常に挿入され、自動的にマージされる
breakpoint always-inserted
設定が変更しました。auto
値と対応する動作が削除されました。デフォルト値は off
です。off
の場合は、すべてのスレッドが停止するまで、GDB がターゲットからブレークポイントを削除しないようになります。
remotebaud コマンドがサポート対象外に
set remotebaud
コマンドおよび show remotebaud
コマンドがサポートされなくなりました。代わりに set serial baud
コマンドおよび show serial baud
コマンドを使用してください。