18.6. ハードウェアのタイムスタンプを使用した Chrony


18.6.1. ハードウェアのタイムスタンプの概要

ハードウェアのタイムスタンプは、一部の Network Interface Controller (NIC) でサポートされている機能です。着信パケットおよび送信パケットのタイムスタンプを正確に提供します。NTP タイムスタンプは通常、カーネルにより作成され、システムクロックを使用して chronyd が作成されます。ただし、ハードウェアのタイムスタンプが有効な場合、NIC は独自のクロックを使用して、パケットがリンク層または物理層に出入りするときにタイムスタンプを生成します。ハードウェアスタンプで NTP を使用すると、同期の精度を大幅に向上できます。最高精度を実現するには、NTP サーバーおよび NTP クライアントの両方が、ハードウェアのタイムスタンプを使用している必要があります。理想的な条件下では、サブマイクロ秒単位の精度を実現できるかもしれません。

ハードウェアのタイムスタンプを使用する時間同期の別のプロトコルには、PTP があります。PTP に関する詳細は、20章ptp4l を使用した PTP の設定 を参照してください。NTP とは異なり、PTP は、ネットワークスイッチおよびルーターの補助に依存しています。同期の精度を最高の状態にしたい場合は、PTP をサポートしているスイッチやルーターがあるネットワークで PTP を使用し、そのようなスイッチおよびルーターがないネットワークでは、NTP を使用することが推奨されます。

18.6.2. ハードウェアタイムスタンプのサポートの確認

NTP を使用したハードウェアのタイムスタンプがインターフェイスでサポートされていることを確認するには、ethtool -T コマンドを実行します。ethtool が、SOF_TIMESTAMPING_TX_HARDWARE 機能、SOF_TIMESTAMPING_TX_SOFTWARE 機能、および HWTSTAMP_FILTER_ALL フィルターモードをリスト表示する場合は、NTP を使用して、ハードウェアのタイムスタンプにインターフェイスを使用できます。

例18.2 特定のインターフェイスにおけるハードウェアのタイムスタンプのサポートの確認

~]# ethtool -T eth0

出力:

Timestamping parameters for eth0:
Capabilities:
    hardware-transmit   (SOF_TIMESTAMPING_TX_HARDWARE)
    software-transmit   (SOF_TIMESTAMPING_TX_SOFTWARE)
    hardware-receive   (SOF_TIMESTAMPING_RX_HARDWARE)
    software-receive   (SOF_TIMESTAMPING_RX_SOFTWARE)
    software-system-clock (SOF_TIMESTAMPING_SOFTWARE)
    hardware-raw-clock  (SOF_TIMESTAMPING_RAW_HARDWARE)
PTP Hardware Clock: 0
Hardware Transmit Timestamp Modes:
    off          (HWTSTAMP_TX_OFF)
    on          (HWTSTAMP_TX_ON)
Hardware Receive Filter Modes:
    none         (HWTSTAMP_FILTER_NONE)
    all          (HWTSTAMP_FILTER_ALL)
    ptpv1-l4-sync     (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V1_L4_SYNC)
    ptpv1-l4-delay-req  (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V1_L4_DELAY_REQ)
    ptpv2-l4-sync     (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V2_L4_SYNC)
    ptpv2-l4-delay-req  (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V2_L4_DELAY_REQ)
    ptpv2-l2-sync     (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V2_L2_SYNC)
    ptpv2-l2-delay-req  (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V2_L2_DELAY_REQ)
    ptpv2-event      (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V2_EVENT)
    ptpv2-sync      (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V2_SYNC)
    ptpv2-delay-req    (HWTSTAMP_FILTER_PTP_V2_DELAY_REQ)

18.6.3. ハードウェアのタイムスタンプの有効化

ハードウェアのタイムスタンプを有効にするには、/etc/chrony.conf ファイルの hwtimestamp ディレクティブを使用します。ディレクティブは、個別のインターフェイスを指定できますが、ワイルドカード文字 () を使用して、ハードウェアのタイムスタンプをサポートするすべてのインターフェイスでハードウェアのタイムスタンプを有効にすることもできます。linuxptp パッケージの ptp4l などのアプリケーションが、ハードウェアのタイムスタンプを使用していない場合は、ワイルドカード仕様を使用してください。chrony 設定ファイルで、複数の hwtimestamp ディレクティブが使用されます。

例18.3 hwtimestamp のディレクティブを使用したハードウェアのタイムスタンプの有効化

hwtimestamp eth0
hwtimestamp eth1
hwtimestamp *

18.6.4. クライアントポーリング間隔の設定

インターネット上のサーバーのポーリング間隔は、デフォルトの範囲である 64 秒から 1024 秒が推奨されています。ローカルサーバーおよびハードウェアのタイムスタンプでは、システムクロックのオフセットを最小限にとどめるため、ポーリング間隔は短く設定する必要があります。

/etc/chrony.conf における以下のディレクティブは、1 秒のポーリング間隔を使用してローカルの NTP サーバーを指定します。

server ntp.local minpoll 0 maxpoll 0

18.6.5. インターリーブモードの有効化

ハードウェアの NTP アプライアンスではなく、chrony など、ソフトウェアの NTP 実装を実行する汎用コンピューターの NTP サーバーは、パケット送信後にのみハードウェア送信タイムスタンプを取得します。この動作により、サーバーは、対応するパケットのタイムスタンプを保存できません。NTP クライアントが、送信後に生成された送信タイムスタンプを受け取るようにするには、/etc/chrony.conf のサーバーディレクティブに xleave オプションを追加し、クライアントが NTP インターリーブモードを使用するように設定します。

server ntp.local minpoll 0 maxpoll 0 xleave

18.6.6. 多数のクライアント向けのサーバーの設定

デフォルトのサーバー設定では、最多で数千のクライアントが同時にインターリーブモードを使用できます。さらに多くのクライアント向けにサーバーを設定するには、/etc/chrony.confclientloglimit ディレクティブを増やします。このディレクティブは、サーバーでクライアントのアクセスログに割り当てられるメモリーの最大サイズを指定します。

clientloglimit 100000000

18.6.7. ハードウェアのタイムスタンプの確認

インターフェイスがハードウェアのタイムスタンプを有効にできたことを確認するには、システムログを確認してください。ログには、chronyd からの各インターフェイス向けメッセージに、有効にしたハードウェアのタイムスタンプが追記されているはずです。

例18.4 ハードウェアのタイムスタンプが有効になったインターフェイスのログメッセージ

chronyd[4081]: Enabled HW timestamping on eth0
chronyd[4081]: Enabled HW timestamping on eth1

chronyd が、NTP クライアントまたはピアとして設定されている場合は、chronyc ntpdata コマンドにより、送信先と受信先のタイムスタンプおよびインターリーブモードを、各 NTP ソースに報告できます。

例18.5 各 NTP ソースの送信先および受信先のタイムスタンプおよびインターリーブモードの報告

~]# chronyc ntpdata

出力:

Remote address : 203.0.113.15 (CB00710F)
Remote port   : 123
Local address  : 203.0.113.74 (CB00714A)
Leap status   : Normal
Version     : 4
Mode      : Server
Stratum     : 1
Poll interval  : 0 (1 seconds)
Precision    : -24 (0.000000060 seconds)
Root delay   : 0.000015 seconds
Root dispersion : 0.000015 seconds
Reference ID  : 47505300 (GPS)
Reference time : Wed May 03 13:47:45 2017
Offset     : -0.000000134 seconds
Peer delay   : 0.000005396 seconds
Peer dispersion : 0.000002329 seconds
Response time  : 0.000152073 seconds
Jitter asymmetry: +0.00
NTP tests    : 111 111 1111
Interleaved   : Yes
Authenticated  : No
TX timestamping : Hardware
RX timestamping : Hardware
Total TX    : 27
Total RX    : 27
Total valid RX : 27

例18.6 NTP 測定の安定性の報告

# chronyc sourcestats

ハードウェアのタイムスタンプを有効にすると、NTP 測定の安定性は、通常のロードにおいて数十ナノ秒または数百ナノ秒となります。この安定性は、chronyc sourcestats コマンドの出力の Std Dev 列に報告されます。

出力:

210 Number of sources = 1
Name/IP Address      NP NR Span Frequency Freq Skew Offset Std Dev
ntp.local         12  7  11   +0.000   0.019   +0ns  49ns

18.6.8. PTP-NTP ブリッジの設定

非常に精度が高い PTP (Precision Time Protocol) のグランドマスターが、PTP サポートのあるスイッチまたはルーターを持たないネットワークで利用可能な場合、コンピューターは、PTP スレーブおよび stratum-1 の NTP サーバーとしての操作に専念する可能性があります。このようなコンピューターには、2 つ以上のネットワークインターフェイスが必要なほか、グランドマスターに近いか、グランドマスターに直接接続されている必要があります。これにより、ネットワークで非常に精度の高い同期が確実に実行されます。

1 つのインターフェイスを使用して、PTP でシステムクロックを同期するように、linuxptp パッケージの ptp4l および phc2sys プログラムを設定します。この設定は、20章ptp4l を使用した PTP の設定 で説明しています。chronyd を設定して、その他のインターフェイスを使用してシステム時間を提供するには、以下を行います。

例18.7 その他のインターフェイスを使用してシステム時間を提供するように chronyd を設定

bindaddress 203.0.113.74
hwtimestamp eth1
local stratum 1
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