第4章 Deployment
4.1. Deployment および DeploymentConfig について
OpenShift Container Platform の Deployment および DeploymentConfig は、一般的なユーザーアプリケーションに対する詳細な管理を行うためのよく似ているものの、異なる 2 つの方法を提供します。これらは、以下の個別の API オブジェクトで構成されています。
- アプリケーションの特定のコンポーネントの必要な状態を記述する、Pod テンプレートとしての DeploymentConfig または Deployment。
- DeploymentConfig には 1 つまたは複数の ReplicationController が使用され、これには Pod テンプレートとしての DeploymentConfig の特定の時点の状態のレコードが含まれます。同様に、Deployment には ReplicationController を継承する 1 つ以上の ReplicaSet が使用されます。
- アプリケーションの特定バージョンのインスタンスを表す 1 つ以上の Pod。
4.1.1. デプロイメントのビルディングブロック
Deployment および DeploymentConfig は、それぞれビルディングブロックとして、ネイティブ Kubernetes API オブジェクトの ReplicationController および ReplicaSet の使用によって有効にされます。
ユーザーは、DeploymentConfig または Deployment によって所有される ReplicationController、ReplicaSet、または Pod を操作する必要はありません。デプロイメントシステムは変更を適切に伝播します。
既存のデプロイメントストラテジーが特定のユースケースに適さない場合で、デプロイメントのライフサイクル期間中に複数の手順を手動で実行する必要がある場合は、カスタムデプロイメントストラテジーを作成することを検討してください。
以下のセクションでは、これらのオブジェクトの詳細情報を提供します。
4.1.1.1. ReplicationController
ReplicationController は、Pod の指定された数のレプリカが常時実行されるようにします。Pod が終了するか、または削除される場合、ReplicationController 定義された数を満たすように追加のインスタンス化を行います。同様に、必要以上の数の Pod が実行されている場合には、定義された数に一致させるために必要な数の Pod を削除します。
ReplicationController 設定は以下で構成されています。
- 必要なレプリカ数 (これはランタイム時に調整可能)。
- レプリケートされた Pod の作成時に使用する Pod 定義。
- 管理された Pod を特定するためのセレクター。
セレクターは、ReplicationController が管理する Pod に割り当てられるラベルセットです。これらのラベルは、Pod 定義に組み込まれ、ReplicationController がインスタンス化します。ReplicationController は、必要に応じて調整できるよう、セレクターを使用してすでに実行中の Pod 数を判別します。
ReplicationController は、負荷またはトラフィックに基づいて自動スケーリングを実行せず、追跡も実行しません。この場合は、レプリカ数を外部の自動スケーラーで調整する必要があります。
以下は ReplicationController 定義の例です。
apiVersion: v1 kind: ReplicationController metadata: name: frontend-1 spec: replicas: 1 1 selector: 2 name: frontend template: 3 metadata: labels: 4 name: frontend 5 spec: containers: - image: openshift/hello-openshift name: helloworld ports: - containerPort: 8080 protocol: TCP restartPolicy: Always
4.1.1.2. ReplicaSet
ReplicationController と同様に、ReplicaSet は、指定された数の Pod レプリカが特定の時点で実行されるようにするネイティブの Kubernetes API オブジェクトです。ReplicaSet と ReplicationController の相違点は、ReplicaSet ではセットベースのセレクター要件をサポートし、レプリケーションコントローラーは等価ベースのセレクター要件のみをサポートする点です。
カスタム更新のオーケストレーションが必要な場合や、更新が全く必要のない場合にのみ ReplicaSet を使用します。それ以外は Deployment を使用します。ReplicaSet は個別に使用できますが、Pod の作成/削除/更新のオーケストレーションを実行するためにデプロイメントで使用されます。Deployment は ReplicaSet を自動的に管理し、Pod に宣言型の更新を加えるので、作成する ReplicaSet を手動で管理する必要はありません。
以下は、ReplicaSet
定義の例になります。
apiVersion: apps/v1 kind: ReplicaSet metadata: name: frontend-1 labels: tier: frontend spec: replicas: 3 selector: 1 matchLabels: 2 tier: frontend matchExpressions: 3 - {key: tier, operator: In, values: [frontend]} template: metadata: labels: tier: frontend spec: containers: - image: openshift/hello-openshift name: helloworld ports: - containerPort: 8080 protocol: TCP restartPolicy: Always
4.1.2. DeploymentConfig
ReplicationController ベースにビルドされた OpenShift Container Platform は、DeploymentConfig の概念に基づいてソフトウェア開発およびデプロイメントライフサイクルの拡張サポートを追加します。最も単純なケースでは、DeploymentConfig は新規の ReplicationController を作成し、これに Pod を起動させます。
ただし、DeploymentConfig の OpenShift Container Platform デプロイメントは、イメージの既存デプロイメントから新規デプロイメントに移行する機能を提供し、ReplicationController の作成前後に実行されるフックも定義します。
DeploymentConfig デプロイメントシステムは以下の機能を提供します。
- アプリケーションを実行するためのテンプレートである DeploymentConfig。
- イベントへの対応として自動化されたデプロイメントを駆動するトリガー。
- 直前のバージョンから新規バージョンに移行するためのユーザーによるカスタマイズが可能なデプロイメントストラテジー。ストラテジーは通常デプロイメントプロセスと呼ばれ、Pod 内で実行されます。
- デプロイメントのライフサイクル中の異なる時点でカスタム動作を実行するためのフックのセット (ライフサイクルフック)。
- デプロイメントの失敗時に手動または自動でロールバックをサポートするためのアプリケーションのバージョン管理。
- レプリケーションの手動および自動スケーリング。
DeploymentConfig を作成すると、ReplicationController が、DeploymentConfig の Pod テンプレートとして作成されます。DeploymentConfig が変更されると、最新の Pod テンプレートで新しい ReplicationController が作成され、デプロイメントプロセスが実行されて以前の ReplicationController のスケールダウン、および新規 ReplicationController のスケールアップが行われます。
アプリケーションのインスタンスは、作成時にサービスローダーバランサーやルーターに対して自動的に追加/削除されます。アプリケーションが正常なシャットダウン機能をサポートしている限り、アプリケーションが TERM
シグナルを受け取ると、実行中のユーザー接続が通常通り完了できるようにすることができます。
OpenShift Container Platform DeploymentConfig
オブジェクトは以下の詳細を定義します。
-
ReplicationController
定義の要素。 - 新規デプロイメントの自動作成のトリガー。
- デプロイメント間の移行ストラテジー。
- ライフサイクルフック。
デプロイヤー Pod は、デプロイメントがトリガーされるたびに、手動または自動であるかを問わず、(古い ReplicationController のスケールダウン、新規 ReplicationController のスケールアップおよびフックの実行などの) デプロイメントを管理します。デプロイメント Pod は、Deployment のログを維持するために Deployment の完了後は無期限で保持されます。デプロイメントが別のものに置き換えられる場合、以前の ReplicationController は必要に応じて簡単なロールバックを有効にできるように保持されます。
DeploymentConfig 定義の例
apiVersion: v1 kind: DeploymentConfig metadata: name: frontend spec: replicas: 5 selector: name: frontend template: { ... } triggers: - type: ConfigChange 1 - imageChangeParams: automatic: true containerNames: - helloworld from: kind: ImageStreamTag name: hello-openshift:latest type: ImageChange 2 strategy: type: Rolling 3
4.1.3. Deployment
Kubernetes は、Deployment という OpenShift Container Platform のファーストクラスのネイティブ API オブジェクトを提供します。Deployment は、OpenShift Container Platform 固有の DeploymentConfig として機能します。
DeploymentConfig の様に、Deployment は Pod テンプレートとして、アプリケーションの特定コンポーネントの必要な状態を記述します。Deployment は、Pod のライフサイクルをオーケストレーションする ReplicaSet を作成します。
たとえば、以下の Deployment 定義は ReplicaSet を作成し、1 つの hello-openshift
Pod を起動します。
Deployment の定義
apiVersion: apps/v1 kind: Deployment metadata: name: hello-openshift spec: replicas: 1 selector: matchLabels: app: hello-openshift template: metadata: labels: app: hello-openshift spec: containers: - name: hello-openshift image: openshift/hello-openshift:latest ports: - containerPort: 80
4.1.4. Deployment および DeploymentConfig の比較
Kubernetes Deployment および OpenShift Container Platform でプロビジョニングされる DeploymentConfig の両方が OpenShift Container Platform でサポートされていますが、DeploymentConfig で提供される特定の機能または動作が必要でない場合、Deployment を使用することが推奨されます。
以下のセクションでは、使用するタイプの決定に役立つ 2 つのオブジェクト間の違いを詳述します。
4.1.4.1. 設計
Deployment と DeploymentConfig の重要な違いの 1 つとして、ロールアウトプロセスで各設計で選択される CAP theorem (原則) のプロパティーがあります。DeploymentConfig は整合性を優先しますが、Deployment は整合性よりも可用性を優先します。
DeploymentConfig の場合、デプロヤー Pod を実行するノードがダウンする場合、ノードの置き換えは行われません。プロセスは、ノードが再びオンラインになるまで待機するか、または手動で削除されます。ノードを手動で削除すると、対応する Pod も削除されます。つまり、kubelet は関連付けられた Pod も削除するため、Pod を削除してロールアウトの固定解除を行うことはできません。
一方、Deployment ロールアウトはコントローラーマネージャーから実行されます。コントローラーマネージャーはマスター上で高可用性モードで実行され、リーダー選択アルゴリズムを使用して可用性を整合性よりも優先するように設定します。障害の発生時には、他の複数のマスターが同時に同じ Deployment に対して作用する可能性がありますが、この問題は障害の発生直後に調整されます。
4.1.4.2. DeploymentConfig 固有の機能
自動ロールバック
現時点で、Deployment では、問題の発生時の最後に正常にデプロイされた ReplicaSet への自動ロールバックをサポートしていません。
トリガー
Deployment の場合、デプロイメントの Pod テンプレートに変更があるたびに新しいロールアウトが自動的にトリガーされるので、暗黙的な ConfigChange
トリガーが含まれます。Pod テンプレートの変更時に新たなロールアウトが不要な場合には、デプロイメントを以下のように停止します。
$ oc rollout pause deployments/<name>
ライフサイクルフック
Deployment ではライフサイクルフックをサポートしていません。
カスタムストラテジー
Deployment では、ユーザーが指定するカスタムデプロイメントストラテジーをサポートしていません。
4.1.4.3. Deployment 固有の機能
ロールオーバー
Deployment のデプロイメントプロセスは、すべての新規ロールアウトにデプロイヤー Pod を使用する DeploymentConfig とは対照的に、コントローラーループで実行されます。つまり、Deployment は任意の数のアクティブな ReplicaSet を指定することができ、デプロイメントコントローラーがすべての古い ReplicaSet をスケールダウンし、最新の ReplicaSet をスケールアップします。
DeploymentConfig では、実行できるデプロイヤー Pod は最大 1 つとなっています。複数のデプロイヤーがある場合は競合が生じ、それぞれが最新の ReplicationController であると考えるコントローラーをスケールアップしようとします。これにより、2 つの ReplicationController のみを一度にアクティブにできます。最終的には Deployment のロールアウトが加速します。
比例スケーリング
Deployment コントローラーのみが Deployment が所有する新旧の ReplicaSet のサイズについての信頼できる情報源であるため、継続中のロールアウトのスケーリングが可能です。追加のレプリカはそれぞれの ReplicaSet のサイズに比例して分散されます。
DeploymentConfig については、DeploymentConfig コントローラーが新規 ReplicationController のサイズに関してデプロイヤープロセスと競合するためにロールアウトが続行されている場合はスケーリングできません。
ロールアウト中の一時停止
Deployment はいつでも一時停止できます。つまり、継続中のロールアウトも一時停止できます。一方、デプロイヤー Pod は現時点で一時停止できないので、ロールアウト時に DeploymentConfig を一時停止しようとしても、デプロイヤープロセスはこの影響を受けず、完了するまで続行されます。