第7章 OpenShift Container Platform での Ingress シャーディング
OpenShift Container Platform では、Ingress Controller はすべてのルートを提供することも、ルートのサブセットを提供することもできます。デフォルトでは、Ingress Controller は、クラスター内の任意の namespace で作成されたすべてのルートを提供します。別の Ingress Controller をクラスターに追加して、選択した特性に基づくルートのサブセットである シャード を作成することにより、ルーティングを最適化できます。ルートをシャードのメンバーとしてマークするには、ルートまたは namespace の メタデータ
フィールドでラベルを使用します。Ingress Controller は、選択式 とも呼ばれる セレクター を使用して、ルートのプール全体からルートのサブセットを選択し、サービスを提供します。
Ingress シャーディングは、受信トラフィックを複数の Ingress Controller 間で負荷分散する場合に、トラフィックを分離して特定の Ingress Controller にルーティングする場合、または次のセクションで説明する他のさまざまな理由で役立ちます。
デフォルトでは、各ルートはクラスターのデフォルトドメインを使用します。ただし、代わりにルーターのドメインを使用するようにルートを設定できます。詳細は Ingress Controller シャーディングのルートの作成 を参照してください。
7.1. Ingress Controller のシャード化
Ingress シャーディング (ルーターシャーディングとも呼ばれます) を使用して、ルート、namespace、またはその両方にラベルを追加することで、一連のルートを複数のルーターに分散できます。Ingress Controller は、対応する一連のセレクターを使用して、指定されたラベルが含まれるルートのみを許可します。各 Ingress シャードは、特定の選択式を使用してフィルタリングされたルートで設定されます。
トラフィックがクラスターに送信される主要なメカニズムとして、Ingress Controller への要求が大きくなる可能性があります。クラスター管理者は、以下を実行するためにルートをシャード化できます。
- Ingress Controller またはルーターを複数のルートに分散し、変更に対する応答を加速します。
- 特定のルートを他のルートとは異なる信頼性の保証を持つように割り当てます。
- 特定の Ingress Controller に異なるポリシーを定義することを許可します。
- 特定のルートのみが追加機能を使用することを許可します。
- たとえば、異なるアドレスで異なるルートを公開し、内部ユーザーおよび外部ユーザーが異なるルートを認識できるようにします。
- blue green デプロイ中に、アプリケーションの別のバージョンにトラフィックを転送します。
Ingress Controller がシャーディングされると、特定のルートがグループ内の 0 個以上の Ingress Controller に受け入れられます。ルートのステータスは、Ingress Controller がルートを受け入れたかどうかを示します。Ingress Controller は、ルートがそのシャードに固有である場合にのみルートを受け入れます。
Ingress Controller は、次の 3 つのシャーディング方法を使用できます。
- namespace セレクターとラベルが同じ namespace 内のすべてのルートが Ingress シャードに含まれるように、namespace セレクターのみを Ingress Controller に追加します。
- Ingress Controller にルートセレクターのみを追加して、ルートセレクターとラベルが同じ全ルートが Ingress シャードに含まれるようにします。
- namespace セレクターとラベルが同じ namespace 内のルートセレクターのラベルがルートと同じ場合に、Ingress シャード内に含まれるように、namespace セレクターとルートセレクターの両方を Ingress Controller に追加します。
シャーディングを使用すると、ルートのサブセットを複数の Ingress Controller に分散できます。これらのサブセットは、重複なし (従来 のシャーディングとも呼ばれる) にすることも、重複 (重複 シャーディングとも呼ばれる) にすることもできます。
7.1.1. 従来のシャーディングの例
Ingress Controller の finops-router
は、ラベルセレクター spec.namespaceSelector.matchLabels.name
を finance
および ops
に指定して設定されます。
finops-router の
YAML 定義の例
apiVersion: operator.openshift.io/v1 kind: IngressController metadata: name: finops-router namespace: openshift-ingress-operator spec: namespaceSelector: matchLabels: name: - finance - ops
2 番目の Ingress Controller dev-router
は、ラベルセレクター spec.namespaceSelector.matchLabels.name
を dev
に指定して設定されます。
dev-router の
YAML 定義の例
apiVersion: operator.openshift.io/v1 kind: IngressController metadata: name: dev-router namespace: openshift-ingress-operator spec: namespaceSelector: matchLabels: name: dev
すべてのアプリケーションルートが個別の namespace にあり、それぞれに name:finance
、name:ops
、および name:dev
というラベルが付けられている場合、この設定は 2 つの Ingress Controller 間でルートを効果的に分散します。コンソール、認証、およびその他の目的の OpenShift Container Platform ルートは処理しないでください。
上記のシナリオでは、シャード化は重複するセットを持たないパーティション設定の特別なケースとなります。ルートは複数のルーターシャード間で分割されます。
デフォルト
の Ingress Controller は、namespaceSelector
または routeSelector
フィールドに除外対象のルートが含まれていない限り、引き続きすべてのルートを提供します。デフォルトの Ingress Controller からルートを除外する方法の詳細は、この Red Hat ナレッジベースのソリューション と「デフォルトの Ingress Controller のシャーディング」のセクションを参照してください。
7.1.2. 重複シャーディングの例
上記の例の finops-router
と dev-router
に加えて、ラベルセレクター spec.namespaceSelector.matchLabels.name
を dev
と ops
に指定して設定された devops-router
もあります。
Devops-router の
YAML 定義の例
apiVersion: operator.openshift.io/v1 kind: IngressController metadata: name: devops-router namespace: openshift-ingress-operator spec: namespaceSelector: matchLabels: name: - dev - ops
name:dev
および name:ops という
名前の namespace のルートは、2 つの異なる Ingress Controller によって処理されるようになりました。この設定では、ルートのサブセットが重複しています。
重複するルートのサブセットを使用すると、より複雑なルーティングルールを作成できます。たとえば、優先度の低いトラフィックを devops-router
に送信しながら、優先度の高いトラフィックを専用の finops-router
に迂回させることができます。
7.1.3. デフォルトの Ingress Controller のシャーディング
新しい Ingress シャードを作成した後に、デフォルトの Ingress Controller と、新しい Ingress シャードの両方により許可されるルートが存在する場合があります。これは、デフォルトの Ingress Controller にセレクターがなく、デフォルトですべてのルートを許可するためです。
namespace セレクターまたはルートセレクターを使用して、Ingress Controller が特定のラベルが割り当てられたルートの処理を制限できます。次の手順では、namespace セレクターを使用して、デフォルトの Ingress Controller が新しく分割された finance
、ops
、および dev
ルートにサービスを提供しないように制限します。これにより、Ingress シャードがさらに分離されます。
OpenShift Container Platform のすべての管理ルートを同じ Ingress Controller で保持する必要があります。したがって、これらの重要なルートを除外するセレクターをデフォルトのIngress Controller に追加することは避けてください。
前提条件
-
OpenShift CLI (
oc
) がインストールされている。 - プロジェクト管理者としてログインしている。
手順
次のコマンドを実行して、デフォルトのIngress Controller を変更します。
$ oc edit ingresscontroller -n openshift-ingress-operator default
Ingress Controller を編集して、
finance
、ops
、およびdev
ラベルのいずれかを持つルートを除外するnamespaceSelector
を含めます。apiVersion: operator.openshift.io/v1 kind: IngressController metadata: name: default namespace: openshift-ingress-operator spec: namespaceSelector: matchExpressions: - key: type operator: NotIn values: - finance - ops - dev
デフォルトの Ingress Controller では、name:finance
、name:ops
、および name:dev
という名前の namespace が提供されなくなります。
7.1.4. Ingress シャーディングと DNS
クラスター管理者は、プロジェクト内のルーターごとに個別の DNS エントリーを作成します。ルーターは不明なルートを別のルーターに転送することはありません。
以下の例を考慮してください。
-
Router A はホスト 192.168.0.5 にあり、
*.foo.com
のルートを持つ。 -
Router B はホスト 192.168.1.9 にあり、
*.example.com
のルートを持つ。
個別の DNS エントリーは、*.foo.com
をルーター A をホストするノードに解決し、*.example.com
をルーター B をホストするノードに解決する必要があります。
-
*.foo.com A IN 192.168.0.5
-
*.example.com A IN 192.168.1.9
7.1.5. ルートラベルを使用した Ingress Controller のシャード化の設定
ルートラベルを使用した Ingress Controller のシャード化とは、Ingress Controller がルートセレクターによって選択される任意 namespace の任意のルートを提供することを意味します。
図7.1 ルートラベルを使用した Ingress シャーディング
Ingress Controller のシャード化は、一連の Ingress Controller 間で着信トラフィックの負荷を分散し、トラフィックを特定の Ingress Controller に分離する際に役立ちます。たとえば、Company A のトラフィックをある Ingress Controller に指定し、Company B を別の Ingress Controller に指定できます。
手順
router-internal.yaml
ファイルを編集します。# cat router-internal.yaml apiVersion: operator.openshift.io/v1 kind: IngressController metadata: name: sharded namespace: openshift-ingress-operator spec: domain: <apps-sharded.basedomain.example.net> 1 nodePlacement: nodeSelector: matchLabels: node-role.kubernetes.io/worker: "" routeSelector: matchLabels: type: sharded
- 1
- Ingress Controller が使用するドメインを指定します。このドメインは、デフォルトの Ingress Controller ドメインとは異なる必要があります。
Ingress Controller の
router-internal.yaml
ファイルを適用します。# oc apply -f router-internal.yaml
Ingress Controller は、
type: sharded
というラベルのある namespace のルートを選択します。router-internal.yaml
で設定されたドメインを使用して新しいルートを作成します。$ oc expose svc <service-name> --hostname <route-name>.apps-sharded.basedomain.example.net
7.1.6. namespace ラベルを使用した Ingress Controller のシャード化の設定
namespace ラベルを使用した Ingress Controller のシャード化とは、Ingress Controller が namespace セレクターによって選択される任意の namespace の任意のルートを提供することを意味します。
図7.2 namespace ラベルを使用した Ingress シャーディング
Ingress Controller のシャード化は、一連の Ingress Controller 間で着信トラフィックの負荷を分散し、トラフィックを特定の Ingress Controller に分離する際に役立ちます。たとえば、Company A のトラフィックをある Ingress Controller に指定し、Company B を別の Ingress Controller に指定できます。
手順
router-internal.yaml
ファイルを編集します。# cat router-internal.yaml
出力例
apiVersion: operator.openshift.io/v1 kind: IngressController metadata: name: sharded namespace: openshift-ingress-operator spec: domain: <apps-sharded.basedomain.example.net> 1 nodePlacement: nodeSelector: matchLabels: node-role.kubernetes.io/worker: "" namespaceSelector: matchLabels: type: sharded
- 1
- Ingress Controller が使用するドメインを指定します。このドメインは、デフォルトの Ingress Controller ドメインとは異なる必要があります。
Ingress Controller の
router-internal.yaml
ファイルを適用します。# oc apply -f router-internal.yaml
Ingress Controller は、
type: sharded
というラベルのある namespace セレクターによって選択される namespace のルートを選択します。router-internal.yaml
で設定されたドメインを使用して新しいルートを作成します。$ oc expose svc <service-name> --hostname <route-name>.apps-sharded.basedomain.example.net