第21章 ネットワークポリシー
21.1. ネットワークポリシーについて
開発者は、クラスター内の Pod へのトラフィックを制限するネットワークポリシーを定義できます。
21.1.1. ネットワークポリシーについて
Kubernetes ネットワークポリシーをサポートするネットワークプラグインを使用するクラスターでは、ネットワーク分離は NetworkPolicy
オブジェクトによって完全に制御されます。OpenShift Container Platform 4.15 では、OpenShift SDN はデフォルトのネットワーク分離モードでのネットワークポリシーの使用をサポートしています。
ネットワークポリシーは、ホストのネットワーク namespace には適用されません。ホストネットワークが有効にされている Pod はネットワークポリシールールによる影響を受けません。ただし、ホストネットワーク化された Pod に接続する Pod はネットワークポリシールールの影響を受ける可能性があります。
ネットワークポリシーは、ローカルホストまたは常駐ノードからのトラフィックをブロックすることはできません。
デフォルトで、プロジェクトのすべての Pod は他の Pod およびネットワークのエンドポイントからアクセスできます。プロジェクトで 1 つ以上の Pod を分離するには、そのプロジェクトで NetworkPolicy
オブジェクトを作成し、許可する着信接続を指定します。プロジェクト管理者は独自のプロジェクト内で NetworkPolicy
オブジェクトの作成および削除を実行できます。
Pod が 1 つ以上の NetworkPolicy
オブジェクトのセレクターで一致する場合、Pod はそれらの 1 つ以上の NetworkPolicy
オブジェクトで許可される接続のみを受け入れます。NetworkPolicy
オブジェクトによって選択されていない Pod は完全にアクセス可能です。
ネットワークポリシーは、TCP、UDP、ICMP、および SCTP プロトコルにのみ適用されます。他のプロトコルは影響を受けません。
以下のサンプル NetworkPolicy
オブジェクトは、複数の異なるシナリオをサポートすることを示しています。
すべてのトラフィックを拒否します。
プロジェクトに deny by default (デフォルトで拒否) を実行させるには、すべての Pod に一致するが、トラフィックを一切許可しない
NetworkPolicy
オブジェクトを追加します。kind: NetworkPolicy apiVersion: networking.k8s.io/v1 metadata: name: deny-by-default spec: podSelector: {} ingress: []
OpenShift Container Platform Ingress Controller からの接続のみを許可します。
プロジェクトで OpenShift Container Platform Ingress Controller からの接続のみを許可するには、以下の
NetworkPolicy
オブジェクトを追加します。apiVersion: networking.k8s.io/v1 kind: NetworkPolicy metadata: name: allow-from-openshift-ingress spec: ingress: - from: - namespaceSelector: matchLabels: network.openshift.io/policy-group: ingress podSelector: {} policyTypes: - Ingress
プロジェクト内の Pod からの接続のみを受け入れます。
重要同じ namespace 内の
hostNetwork
Pod からの Ingress 接続を許可するには、allow-from-hostnetwork
ポリシーとallow-same-namespace
ポリシーを一緒に適用する必要があります。Pod が同じプロジェクト内の他の Pod からの接続を受け入れるが、他のプロジェクトの Pod からの接続を拒否するように設定するには、以下の
NetworkPolicy
オブジェクトを追加します。kind: NetworkPolicy apiVersion: networking.k8s.io/v1 metadata: name: allow-same-namespace spec: podSelector: {} ingress: - from: - podSelector: {}
Pod ラベルに基づいて HTTP および HTTPS トラフィックのみを許可します。
特定のラベル (以下の例の
role=frontend
) の付いた Pod への HTTP および HTTPS アクセスのみを有効にするには、以下と同様のNetworkPolicy
オブジェクトを追加します。kind: NetworkPolicy apiVersion: networking.k8s.io/v1 metadata: name: allow-http-and-https spec: podSelector: matchLabels: role: frontend ingress: - ports: - protocol: TCP port: 80 - protocol: TCP port: 443
namespace および Pod セレクターの両方を使用して接続を受け入れます。
namespace と Pod セレクターを組み合わせてネットワークトラフィックのマッチングをするには、以下と同様の
NetworkPolicy
オブジェクトを使用できます。kind: NetworkPolicy apiVersion: networking.k8s.io/v1 metadata: name: allow-pod-and-namespace-both spec: podSelector: matchLabels: name: test-pods ingress: - from: - namespaceSelector: matchLabels: project: project_name podSelector: matchLabels: name: test-pods
NetworkPolicy
オブジェクトは加算されるものです。 つまり、複数の NetworkPolicy
オブジェクトを組み合わせて複雑なネットワーク要件を満すことができます。
たとえば、先の例で定義された NetworkPolicy
オブジェクトの場合、同じプロジェト内に allow-same-namespace
と allow-http-and-https
ポリシーの両方を定義することができます。これにより、ラベル role=frontend
の付いた Pod は各ポリシーで許可されるすべての接続を受け入れます。つまり、同じ namespace の Pod からのすべてのポート、およびすべての namespace の Pod からのポート 80
および 443
での接続を受け入れます。
21.1.1.1. allow-from-router ネットワークポリシーの使用
次の NetworkPolicy
を使用して、ルーターの設定に関係なく外部トラフィックを許可します。
apiVersion: networking.k8s.io/v1
kind: NetworkPolicy
metadata:
name: allow-from-router
spec:
ingress:
- from:
- namespaceSelector:
matchLabels:
policy-group.network.openshift.io/ingress: ""1
podSelector: {}
policyTypes:
- Ingress
- 1
policy-group.network.openshift.io/ingress:""
ラベルは、OpenShift-SDN と OVN-Kubernetes の両方をサポートします。
21.1.1.2. allow-from-hostnetwork ネットワークポリシーの使用
次の allow-from-hostnetwork
NetworkPolicy
オブジェクトを追加して、ホストネットワーク Pod からのトラフィックを転送します。
apiVersion: networking.k8s.io/v1 kind: NetworkPolicy metadata: name: allow-from-hostnetwork spec: ingress: - from: - namespaceSelector: matchLabels: policy-group.network.openshift.io/host-network: "" podSelector: {} policyTypes: - Ingress
21.1.2. OpenShift SDN を使用したネットワークポリシー最適化
ネットワークポリシーを使用して、namespace 内でラベルで相互に区別される Pod を分離します。
NetworkPolicy
オブジェクトを単一 namespace 内の多数の個別 Pod に適用することは効率的ではありません。Pod ラベルは IP レベルには存在しないため、ネットワークポリシーは、podSelector
で選択されるすべての Pod 間のすべてのリンクに関する別個の Open vSwitch (OVS) フロールールを生成します。
たとえば、仕様の podSelector
および NetworkPolicy
オブジェクト内の Ingress podSelector
のそれぞれが 200 Pod に一致する場合、40,000 (200*200) OVS フロールールが生成されます。これにより、ノードの速度が低下する可能性があります。
ネットワークポリシーを設計する場合は、以下のガイドラインを参照してください。
namespace を使用して分離する必要のある Pod のグループを組み込み、OVS フロールールの数を減らします。
namespace 全体を選択する
NetworkPolicy
オブジェクトは、namespaceSelector
または空のpodSelector
を使用して、namespace の VXLAN 仮想ネットワーク ID (VNID) に一致する単一の OVS フロールールのみを生成します。- 分離する必要のない Pod は元の namespace に維持し、分離する必要のある Pod は 1 つ以上の異なる namespace に移します。
- 追加のターゲット設定された namespace 間のネットワークポリシーを作成し、分離された Pod から許可する必要のある特定のトラフィックを可能にします。
21.1.3. OVN-Kubernetes ネットワークプラグインによるネットワークポリシーの最適化
ネットワークポリシーを設計する場合は、以下のガイドラインを参照してください。
-
同じ
spec.podSelector
仕様を持つネットワークポリシーの場合、ingress
ルールまたはegress
ルールを持つ複数のネットワークポリシーを使用するよりも、複数のIngress
ルールまたはegress
ルールを持つ 1 つのネットワークポリシーを使用する方が効率的です。 podSelector
またはnamespaceSelector
仕様に基づくすべてのIngress
またはegress
ルールは、number of pods selected by network policy + number of pods selected by ingress or egress rule
に比例する数の OVS フローを生成します。そのため、Pod ごとに個別のルールを作成するのではなく、1 つのルールで必要な数の Pod を選択できるpodSelector
またはnamespaceSelector
仕様を使用することが推奨されます。たとえば、以下のポリシーには 2 つのルールが含まれています。
apiVersion: networking.k8s.io/v1 kind: NetworkPolicy metadata: name: test-network-policy spec: podSelector: {} ingress: - from: - podSelector: matchLabels: role: frontend - from: - podSelector: matchLabels: role: backend
以下のポリシーは、上記と同じ 2 つのルールを 1 つのルールとして表現しています。
apiVersion: networking.k8s.io/v1 kind: NetworkPolicy metadata: name: test-network-policy spec: podSelector: {} ingress: - from: - podSelector: matchExpressions: - {key: role, operator: In, values: [frontend, backend]}
同じガイドラインが
spec.podSelector
仕様に適用されます。異なるネットワークポリシーに同じingress
ルールまたはegress
ルールがある場合、共通のspec.podSelector
仕様で 1 つのネットワークポリシーを作成する方が効率的な場合があります。たとえば、以下の 2 つのポリシーには異なるルールがあります。apiVersion: networking.k8s.io/v1 kind: NetworkPolicy metadata: name: policy1 spec: podSelector: matchLabels: role: db ingress: - from: - podSelector: matchLabels: role: frontend --- apiVersion: networking.k8s.io/v1 kind: NetworkPolicy metadata: name: policy2 spec: podSelector: matchLabels: role: client ingress: - from: - podSelector: matchLabels: role: frontend
以下のネットワークポリシーは、上記と同じ 2 つのルールを 1 つのルールとして表現しています。
apiVersion: networking.k8s.io/v1 kind: NetworkPolicy metadata: name: policy3 spec: podSelector: matchExpressions: - {key: role, operator: In, values: [db, client]} ingress: - from: - podSelector: matchLabels: role: frontend
この最適化は、複数のセレクターを 1 つのセレクターとして表現する場合に限り適用できます。セレクターが異なるラベルに基づいている場合、この最適化は適用できない可能性があります。その場合は、ネットワークポリシーの最適化に特化して新規ラベルをいくつか適用することを検討してください。
21.1.4. 次のステップ
- ネットワークポリシーの作成
- オプション: デフォルトネットワークポリシーの定義