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21.3. IPsec を使用した VPN の設定

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RHEL 8 では、仮想プライベートネットワーク (VPN) は IPsec プロトコルを使用して設定できます。これは、Libreswan アプリケーションによりサポートされます。

21.3.1. IPsec VPN 実装としての Libreswan

RHEL では、仮想プライベートネットワーク (VPN) は IPsec プロトコルを使用して設定できます。これは、Libreswan アプリケーションによりサポートされます。Libreswan は、Openswan アプリケーションの延長であり、Openswan ドキュメントの多くの例は Libreswan でも利用できます。

VPN の IPsec プロトコルは、IKE (Internet Key Exchange) プロトコルを使用して設定されます。IPsec と IKE は同義語です。IPsec VPN は、IKE VPN、IKEv2 VPN、XAUTH VPN、Cisco VPN、または IKE/IPsec VPN とも呼ばれます。Layer 2 Tunneling Protocol (L2TP) も使用する IPsec VPN のバリアントは、通常、L2TP/IPsec VPN と呼ばれ、optional のリポジトリーによって提供される xl2tpd パッケージが必要です。

Libreswan は、オープンソースのユーザー空間の IKE 実装です。IKE v1 および v2 は、ユーザーレベルのデーモンとして実装されます。IKE プロトコルも暗号化されています。IPsec プロトコルは Linux カーネルで実装され、Libreswan は、VPN トンネル設定を追加および削除するようにカーネルを設定します。

IKE プロトコルは、UDP ポート 500 および 4500 を使用します。IPsec プロトコルは、以下の 2 つのプロトコルで設定されます。

  • 暗号セキュリティーペイロード (ESP) (プロトコル番号が 50)
  • 認証ヘッダー (AH) (プロトコル番号 51)

AH プロトコルの使用は推奨されていません。AH のユーザーは、null 暗号化で ESP に移行することが推奨されます。

IPsec プロトコルは、以下の 2 つの操作モードを提供します。

  • トンネルモード (デフォルト)
  • トランスポートモード

IKE を使用せずに IPsec を使用してカーネルを設定できます。これは、手動キーリング と呼ばれます。また、ip xfrm コマンドを使用して手動キーを設定できますが、これはセキュリティー上の理由からは強く推奨されません。Libreswan では、netlink を使用する Linux カーネルで相互作用が行われます。Linux カーネルでパケットの暗号化と復号が行われます。

Libreswan は、ネットワークセキュリティーサービス (NSS) 暗号化ライブラリーを使用します。Libreswan および NSS はともに、連邦情報処理標準 (FIPS) の公開文書 140-2 での使用が認定されています。

重要

Libreswan および Linux カーネルが実装する IKE/IPsec の VPN は、RHEL で使用することが推奨される唯一の VPN 技術です。その他の VPN 技術は、そのリスクを理解せずに使用しないでください。

RHEL では、Libreswan はデフォルトで システム全体の暗号化ポリシー に従います。これにより、Libreswan は、デフォルトのプロトコルとして IKEv2 を含む現在の脅威モデルに対して安全な設定を使用するようになります。詳細は、Using system-wide crypto policies を参照してください。

IKE/IPsec はピアツーピアプロトコルであるため、Libreswan では、ソースおよび宛先、またはサーバーおよびクライアントという用語を使用しません。終了点 (ホスト) を参照する場合は、代わりに左と右という用語を使用します。これにより、ほとんどの場合、両方の終了点で同じ設定も使用できます。ただし、管理者は通常、ローカルホストに左を使用し、リモートホストに右を使用します。

leftidrightid オプションは、認証プロセス内の各ホストの識別として機能します。詳細は、man ページの ipsec.conf(5) を参照してください。

21.3.2. Libreswan の認証方法

Libreswan は複数の認証方法をサポートしますが、それぞれは異なるシナリオとなっています。

事前共有キー (PSK)

事前共有キー (PSK) は、最も簡単な認証メソッドです。セキュリティー上の理由から、PSK は 64 文字未満は使用しないでください。FIPS モードでは、PSK は、使用される整合性アルゴリズムに応じて、、最低強度の要件に準拠する必要があります。authby=secret 接続を使用して PSK を設定できます。

Raw RSA 鍵

Raw RSA 鍵 は、静的なホスト間またはサブネット間の IPsec 設定で一般的に使用されます。各ホストは、他のすべてのホストのパブリック RSA 鍵を使用して手動で設定され、Libreswan はホストの各ペア間で IPsec トンネルを設定します。この方法は、多数のホストでは適切にスケーリングされません。

ipsec newhostkey コマンドを使用して、ホストで Raw RSA 鍵を生成できます。ipsec showhostkey コマンドを使用して、生成された鍵をリスト表示できます。leftrsasigkey= の行は、CKA ID キーを使用する接続設定に必要です。Raw RSA 鍵に authby=rsasig 接続オプションを使用します。

X.509 証明書

X.509 証明書 は、共通の IPsec ゲートウェイに接続するホストが含まれる大規模なデプロイメントに一般的に使用されます。中央の 認証局 (CA) は、ホストまたはユーザーの RSA 証明書に署名します。この中央 CA は、個別のホストまたはユーザーの取り消しを含む、信頼のリレーを行います。

たとえば、openssl コマンドおよび NSS certutil コマンドを使用して X.509 証明書を生成できます。Libreswan は、leftcert= 設定オプションの証明書のニックネームを使用して NSS データベースからユーザー証明書を読み取るため、証明書の作成時にニックネームを指定します。

カスタム CA 証明書を使用する場合は、これを Network Security Services(NSS) データベースにインポートする必要があります。ipsec import コマンドを使用して、PKCS #12 形式の証明書を Libreswan NSS データベースにインポートできます。

警告

Libreswan は、section 3.1 of RFC 4945 で説明されているように、すべてのピア証明書のサブジェクト代替名 (SAN) としてインターネット鍵 Exchange(IKE) ピア ID を必要とします。require-id-on-certificated= オプションを変更してこのチェックを無効にすると、システムが中間者攻撃に対して脆弱になる可能性があります。

SHA-1 および SHA-2 で RSA を使用した X.509 証明書に基づく認証に authby=rsasig 接続オプションを使用します。authby=ecdsa に設定し、authby=rsa-sha2 を介した SHA-2 による RSA Probabilistic Signature Scheme (RSASSA-PSS) デジタル署名ベースの認証を設定することにより、SHA-2 を使用する ECDSA デジタル署名に対してさらに制限することができます。デフォルト値は authby=rsasig,ecdsa です。

証明書と authby= 署名メソッドが一致する必要があります。これにより、相互運用性が向上し、1 つのデジタル署名システムでの認証が維持されます。

NULL 認証

null 認証 は、認証なしでメッシュの暗号化を取得するために使用されます。これは、パッシブ攻撃は防ぎますが、アクティブ攻撃は防ぎません。ただし、IKEv2 は非対称認証メソッドを許可するため、NULL 認証はインターネットスケールのオポチュニスティック IPsec にも使用できます。このモデルでは、クライアントはサーバーを認証しますが、サーバーはクライアントを認証しません。このモデルは、TLS を使用して Web サイトのセキュリティーを保護するのと似ています。NULL 認証に authby=null を使用します。

量子コンピューターに対する保護

上記の認証方法に加えて、Post-quantum Pre-shared Key (PPK) メソッドを使用して、量子コンピューターによる潜在的な攻撃から保護することができます。個々のクライアントまたはクライアントグループは、帯域外で設定された事前共有鍵に対応する PPK ID を指定することにより、独自の PPK を使用できます。

事前共有鍵が設定されている IKEv1 を使用すると、量子攻撃者からの保護が提供されます。IKEv2 の再設計は、この保護をネイティブに提供しません。Libreswan は、Post-quantum Pre-shared Key (PPK) を使用して、量子攻撃に対して IKEv2 接続を保護します。

任意の PPK 対応を有効にする場合は、接続定義に ppk=yes を追加します。PPK が必要な場合は ppk=insist を追加します。次に、各クライアントには、帯域外で通信する (および可能であれば量子攻撃に対して安全な) シークレット値を持つ PPK ID を付与できます。PPK はランダム性において非常に強力で、辞書の単語に基づいていません。PPK ID および PPK データは ipsec.secrets に保存されます。以下に例を示します。

@west @east : PPKS "user1" "thestringismeanttobearandomstr"

PPKS オプションは、静的な PPK を参照します。実験的な関数は、ワンタイムパッドに基づいた動的 PPK を使用します。各接続では、ワンタイムパッドの新しい部分が PPK として使用されます。これを使用すると、ファイル内の動的な PPK の部分がゼロで上書きされ、再利用を防ぐことができます。複数のタイムパッドマテリアルが残っていないと、接続は失敗します。詳細は、man ページの ipsec.secrets(5) を参照してください。

警告

動的 PPK の実装はサポート対象外のテクノロジープレビューとして提供されます。注意して使用してください。

21.3.3. Libreswan のインストール

この手順では、Libreswan IPsec/IKE VPN 実装をインストールおよび起動を行う手順を説明します。

前提条件

  • AppStream リポジトリーが有効になっている。

手順

  1. libreswan パッケージをインストールします。

    # yum install libreswan
  2. Libreswan を再インストールする場合は、古いデータベースファイルを削除し、新しいデータベースを作成します。

    # systemctl stop ipsec
    # rm /etc/ipsec.d/*db
    # ipsec initnss
  3. ipsec サービスを開始して有効にし、システムの起動時にサービスを自動的に開始できるようにします。

    # systemctl enable ipsec --now
  4. ファイアウォールで、ipsec サービスを追加して、IKE プロトコル、ESP プロトコル、および AH プロトコルの 500/UDP ポートおよび 4500/UDP ポートを許可するように設定します。

    # firewall-cmd --add-service="ipsec"
    # firewall-cmd --runtime-to-permanent

21.3.4. ホスト間の VPN の作成

Libreswan が、Raw RSA 鍵による認証を使用して、leftrightと呼ばれる 2 つのホスト間にホスト間の IPsec VPN を作成するように設定するには、両方のホストに以下のコマンドを入力します。

前提条件

  • Libreswan がインストールされ、ipsec サービスが各ノードで開始している。

手順

  1. 各ホストで Raw RSA 鍵ペアを生成します。

    # ipsec newhostkey
  2. 前の手順で生成した鍵の ckaid を返します。 で次のコマンドを実行して、その ckaid を使用します。以下に例を示します。

    # ipsec showhostkey --left --ckaid 2d3ea57b61c9419dfd6cf43a1eb6cb306c0e857d

    上のコマンドの出力により、設定に必要な leftrsasigkey= 行が生成されます。次のホスト () でも同じ操作を行います。

    # ipsec showhostkey --right --ckaid a9e1f6ce9ecd3608c24e8f701318383f41798f03
  3. /etc/ipsec.d/ ディレクトリーで、新しい my_host-to-host.conf ファイルを作成します。上の手順の ipsec showhostkey コマンドの出力から、RSA ホストの鍵を新規ファイルに書き込みます。以下に例を示します。

    conn mytunnel
        leftid=@west
        left=192.1.2.23
        leftrsasigkey=0sAQOrlo+hOafUZDlCQmXFrje/oZm [...] W2n417C/4urYHQkCvuIQ==
        rightid=@east
        right=192.1.2.45
        rightrsasigkey=0sAQO3fwC6nSSGgt64DWiYZzuHbc4 [...] D/v8t5YTQ==
        authby=rsasig
  4. 鍵をインポートしたら、ipsec サービスを再起動します。

    # systemctl restart ipsec
  5. 接続を読み込みます。

    # ipsec auto --add mytunnel
  6. トンネルを確立します。

    # ipsec auto --up mytunnel
  7. ipsec サービスの開始時に自動的にトンネルを開始するには、以下の行を接続定義に追加します。

    auto=start

21.3.5. サイト間 VPN の設定

2 つのネットワークを結合してサイト間の IPsec VPN を作成する場合は、その 2 つのホスト間の IPsec トンネルを作成します。これにより、ホストは終了点として動作し、1 つまたは複数のサブネットからのトラフィックが通過できるように設定されます。したがって、ホストを、ネットワークのリモート部分にゲートウェイとして見なすことができます。

サイト間の VPN の設定は、設定ファイル内で複数のネットワークまたはサブネットを指定する必要がある点のみが、ホスト間の VPN とは異なります。

前提条件

手順

  1. ホスト間の VPN の設定が含まれるファイルを、新規ファイルにコピーします。以下に例を示します。

    # cp /etc/ipsec.d/my_host-to-host.conf /etc/ipsec.d/my_site-to-site.conf
  2. 上の手順で作成したファイルに、サブネット設定を追加します。以下に例を示します。

    conn mysubnet
         also=mytunnel
         leftsubnet=192.0.1.0/24
         rightsubnet=192.0.2.0/24
         auto=start
    
    conn mysubnet6
         also=mytunnel
         leftsubnet=2001:db8:0:1::/64
         rightsubnet=2001:db8:0:2::/64
         auto=start
    
    # the following part of the configuration file is the same for both host-to-host and site-to-site connections:
    
    conn mytunnel
        leftid=@west
        left=192.1.2.23
        leftrsasigkey=0sAQOrlo+hOafUZDlCQmXFrje/oZm [...] W2n417C/4urYHQkCvuIQ==
        rightid=@east
        right=192.1.2.45
        rightrsasigkey=0sAQO3fwC6nSSGgt64DWiYZzuHbc4 [...] D/v8t5YTQ==
        authby=rsasig

21.3.6. リモートアクセスの VPN の設定

ロードウォーリアーとは、モバイルクライアントと動的に割り当てられた IP アドレスを使用する移動するユーザーのことです。モバイルクライアントは、X.509 証明書を使用して認証します。

以下の例では、IKEv2 の設定を示しています。IKEv1 XAUTH プロトコルは使用していません。

サーバー上では以下の設定になります。

conn roadwarriors
    ikev2=insist
    # support (roaming) MOBIKE clients (RFC 4555)
    mobike=yes
    fragmentation=yes
    left=1.2.3.4
    # if access to the LAN is given, enable this, otherwise use 0.0.0.0/0
    # leftsubnet=10.10.0.0/16
    leftsubnet=0.0.0.0/0
    leftcert=gw.example.com
    leftid=%fromcert
    leftxauthserver=yes
    leftmodecfgserver=yes
    right=%any
    # trust our own Certificate Agency
    rightca=%same
    # pick an IP address pool to assign to remote users
    # 100.64.0.0/16 prevents RFC1918 clashes when remote users are behind NAT
    rightaddresspool=100.64.13.100-100.64.13.254
    # if you want remote clients to use some local DNS zones and servers
    modecfgdns="1.2.3.4, 5.6.7.8"
    modecfgdomains="internal.company.com, corp"
    rightxauthclient=yes
    rightmodecfgclient=yes
    authby=rsasig
    # optionally, run the client X.509 ID through pam to allow or deny client
    # pam-authorize=yes
    # load connection, do not initiate
    auto=add
    # kill vanished roadwarriors
    dpddelay=1m
    dpdtimeout=5m
    dpdaction=clear

ロードウォーリアーのデバイスであるモバイルクライアントでは、上記の設定に多少変更を加えて使用します。

conn to-vpn-server
    ikev2=insist
    # pick up our dynamic IP
    left=%defaultroute
    leftsubnet=0.0.0.0/0
    leftcert=myname.example.com
    leftid=%fromcert
    leftmodecfgclient=yes
    # right can also be a DNS hostname
    right=1.2.3.4
    # if access to the remote LAN is required, enable this, otherwise use 0.0.0.0/0
    # rightsubnet=10.10.0.0/16
    rightsubnet=0.0.0.0/0
    fragmentation=yes
    # trust our own Certificate Agency
    rightca=%same
    authby=rsasig
    # allow narrowing to the server’s suggested assigned IP and remote subnet
    narrowing=yes
    # support (roaming) MOBIKE clients (RFC 4555)
    mobike=yes
    # initiate connection
    auto=start

21.3.7. メッシュ VPN の設定

any-to-any VPN とも呼ばれるメッシュ VPN ネットワークは、全ノードが IPsec を使用して通信するネットワークです。この設定では、IPsec を使用できないノードの例外が許可されます。メッシュの VPN ネットワークは、以下のいずれかの方法で設定できます。

  • IPSec を必要とする。
  • IPsec を優先するが、平文通信へのフォールバックを可能にする。

ノード間の認証は、X.509 証明書または DNSSEC (DNS Security Extensions) を基にできます。

以下の手順では、X.509 証明書を使用します。これらの証明書は、Dongtag Certificate System などのいかなる種類の認証局 (CA) 管理システムを使用して生成できます。Dogtag は、各ノードの証明書が PKCS #12 形式 (.p12 ファイル) で利用可能であることを前提としています。これには、秘密鍵、ノード証明書、およびその他のノードの X.509 証明書を検証するのに使用されるルート CA 証明書が含まれます。

各ノードでは、その X.509 証明書を除いて、同じ設定を使用します。これにより、ネットワーク内で既存ノードを再設定せずに、新規ノードを追加できます。PKCS #12 ファイルには分かりやすい名前が必要であるため、名前には node を使用します。これにより、すべてのノードに対して、この名前を参照する設定ファイルが同一になります。

前提条件

  • Libreswan がインストールされ、ipsec サービスが各ノードで開始している。

手順

  1. 各ノードで PKCS #12 ファイルをインポートします。この手順では、PKCS #12 ファイルの生成に使用するパスワードが必要になります。

    # ipsec import nodeXXX.p12
  2. IPsec required (private)、IPsec optional (private-or-clear)、および No IPsec (clear) プロファイルに、以下のような 3 つの接続定義を作成します。

    # cat /etc/ipsec.d/mesh.conf
    conn clear
    	auto=ondemand
    	type=passthrough
    	authby=never
    	left=%defaultroute
    	right=%group
    
    conn private
    	auto=ondemand
    	type=transport
    	authby=rsasig
    	failureshunt=drop
    	negotiationshunt=drop
    	# left
    	left=%defaultroute
    	leftcert=nodeXXXX
    	leftid=%fromcert
            leftrsasigkey=%cert
    	# right
    	rightrsasigkey=%cert
    	rightid=%fromcert
    	right=%opportunisticgroup
    
    conn private-or-clear
    	auto=ondemand
    	type=transport
    	authby=rsasig
    	failureshunt=passthrough
    	negotiationshunt=passthrough
    	# left
    	left=%defaultroute
    	leftcert=nodeXXXX
    	leftid=%fromcert
            leftrsasigkey=%cert
    	# right
    	rightrsasigkey=%cert
    	rightid=%fromcert
    	right=%opportunisticgroup
  3. 適切なカテゴリーに、ネットワークの IP アドレスを追加します。たとえば、すべてのノードが 10.15.0.0/16 ネットワークにある場合は、すべてのノードに IPsec 暗号が必要です。

    # echo "10.15.0.0/16" >> /etc/ipsec.d/policies/private
  4. 特定のノード (例: 10.15.34.0/24) を、IPsec を使用または使用せずに機能させるには、以下の設定を使用して、これらのノードを private-or-clear グループに追加します。

    # echo "10.15.34.0/24" >> /etc/ipsec.d/policies/private-or-clear
  5. ホストを、10.15.1.2 など、IPsec の機能がない clear グループに定義する場合は、次のコマンドを実行します。

    # echo "10.15.1.2/32" >> /etc/ipsec.d/policies/clear

    /etc/ipsec.d/policies ディレクトリーのファイルは、各新規ノードのテンプレートから作成することも、Puppet または Ansible を使用してプロビジョニングすることもできます。

    すべてのノードでは、例外のリストが同じか、異なるトラフィックフローが期待される点に注意してください。したがって、あるノードで IPsec が必要になり、別のノードで IPsec を使用できないために、ノード間の通信ができない場合もあります。

  6. ノードを再起動して、設定したメッシュに追加します。

    # systemctl restart ipsec
  7. ノードを追加したら、ping コマンドで IPsec トンネルを開くだけで十分です。ノードが開くトンネルを確認するには、次のコマンドを実行します。

    # ipsec trafficstatus

21.3.8. FIPS 準拠の IPsec VPN のデプロイメント

この手順を使用して、Libreswan に基づく FIPS 準拠の IPsec VPN ソリューションをデプロイします。次の手順では、FIPS モードの Libreswan で使用可能な暗号化アルゴリズムと無効になっている暗号化アルゴリズムを識別することもできます。

前提条件

  • AppStream リポジトリーが有効になっている。

手順

  1. libreswan パッケージをインストールします。

    # yum install libreswan
  2. Libreswan を再インストールする場合は、古い NSS データベースを削除します。

    # systemctl stop ipsec
    # rm /etc/ipsec.d/*db
  3. ipsec サービスを開始して有効にし、システムの起動時にサービスを自動的に開始できるようにします。

    # systemctl enable ipsec --now
  4. ファイアウォールで、ipsec サービスを追加して、IKE プロトコル、ESP プロトコル、および AH プロトコルの 500/UDP ポートおよび 4500/UDP ポートを許可するように設定します。

    # firewall-cmd --add-service="ipsec"
    # firewall-cmd --runtime-to-permanent
  5. システムを FIPS モードに切り替えます。

    # fips-mode-setup --enable
  6. システムを再起動して、カーネルを FIPS モードに切り替えます。

    # reboot

検証

  1. Libreswan が FIPS モードで実行していることを確認するには、次のコマンドを実行します。

    # ipsec whack --fipsstatus
    000 FIPS mode enabled
  2. または、systemd ジャーナルで ipsec ユニットのエントリーを確認します。

    $ journalctl -u ipsec
    ...
    Jan 22 11:26:50 localhost.localdomain pluto[3076]: FIPS Product: YES
    Jan 22 11:26:50 localhost.localdomain pluto[3076]: FIPS Kernel: YES
    Jan 22 11:26:50 localhost.localdomain pluto[3076]: FIPS Mode: YES
  3. FIPS モードで使用可能なアルゴリズムを表示するには、次のコマンドを実行します。

    # ipsec pluto --selftest 2>&1 | head -11
    FIPS Product: YES
    FIPS Kernel: YES
    FIPS Mode: YES
    NSS DB directory: sql:/etc/ipsec.d
    Initializing NSS
    Opening NSS database "sql:/etc/ipsec.d" read-only
    NSS initialized
    NSS crypto library initialized
    FIPS HMAC integrity support [enabled]
    FIPS mode enabled for pluto daemon
    NSS library is running in FIPS mode
    FIPS HMAC integrity verification self-test passed
  4. FIPS モードで無効化されたアルゴリズムをクエリーするには、次のコマンドを実行します。

    # ipsec pluto --selftest 2>&1 | grep disabled
    Encryption algorithm CAMELLIA_CTR disabled; not FIPS compliant
    Encryption algorithm CAMELLIA_CBC disabled; not FIPS compliant
    Encryption algorithm SERPENT_CBC disabled; not FIPS compliant
    Encryption algorithm TWOFISH_CBC disabled; not FIPS compliant
    Encryption algorithm TWOFISH_SSH disabled; not FIPS compliant
    Encryption algorithm NULL disabled; not FIPS compliant
    Encryption algorithm CHACHA20_POLY1305 disabled; not FIPS compliant
    Hash algorithm MD5 disabled; not FIPS compliant
    PRF algorithm HMAC_MD5 disabled; not FIPS compliant
    PRF algorithm AES_XCBC disabled; not FIPS compliant
    Integrity algorithm HMAC_MD5_96 disabled; not FIPS compliant
    Integrity algorithm HMAC_SHA2_256_TRUNCBUG disabled; not FIPS compliant
    Integrity algorithm AES_XCBC_96 disabled; not FIPS compliant
    DH algorithm MODP1024 disabled; not FIPS compliant
    DH algorithm MODP1536 disabled; not FIPS compliant
    DH algorithm DH31 disabled; not FIPS compliant
  5. FIPS モードで許可されているすべてのアルゴリズムと暗号のリストを表示するには、次のコマンドを実行します。

    # ipsec pluto --selftest 2>&1 | grep ESP | grep FIPS | sed "s/^.*FIPS//"
    {256,192,*128}  aes_ccm, aes_ccm_c
    {256,192,*128}  aes_ccm_b
    {256,192,*128}  aes_ccm_a
    [*192]  3des
    {256,192,*128}  aes_gcm, aes_gcm_c
    {256,192,*128}  aes_gcm_b
    {256,192,*128}  aes_gcm_a
    {256,192,*128}  aesctr
    {256,192,*128}  aes
    {256,192,*128}  aes_gmac
    sha, sha1, sha1_96, hmac_sha1
    sha512, sha2_512, sha2_512_256, hmac_sha2_512
    sha384, sha2_384, sha2_384_192, hmac_sha2_384
    sha2, sha256, sha2_256, sha2_256_128, hmac_sha2_256
    aes_cmac
    null
    null, dh0
    dh14
    dh15
    dh16
    dh17
    dh18
    ecp_256, ecp256
    ecp_384, ecp384
    ecp_521, ecp521

21.3.9. パスワードによる IPsec NSS データベースの保護

デフォルトでは、IPsec サービスは、初回起動時に空のパスワードを使用して Network Security Services (NSS) データベースを作成します。パスワード保護を追加するには、以下の手順を実行します。

注記

以前の RHEL 6.6 リリースでは、NSS 暗号化ライブラリーが FIPS 140-2 Level 2 標準で認定されているため、FIPS 140-2 要件を満たすパスワードで IPsec NSS データベースを保護する必要がありました。RHEL 8 では、この規格の NIST 認定 NSS がこの規格のレベル 1 に認定されており、このステータスではデータベースのパスワード保護は必要ありません。

前提条件

  • /etc/ipsec.d/ ディレクトリーに NSS データベースファイルが含まれます。

手順

  1. Libreswan の NSS データベースのパスワード保護を有効にします。

    # certutil -N -d sql:/etc/ipsec.d
    Enter Password or Pin for "NSS Certificate DB":
    Enter a password which will be used to encrypt your keys.
    The password should be at least 8 characters long,
    and should contain at least one non-alphabetic character.
    
    Enter new password:
  2. 前の手順で設定したパスワードを追加した /etc/ipsec.d/nsspassword ファイルを作成します。以下に例を示します。

    # cat /etc/ipsec.d/nsspassword
    NSS Certificate DB:MyStrongPasswordHere

    nsspassword ファイルは以下の構文を使用することに注意してください。

    token_1_name:the_password
    token_2_name:the_password

    デフォルトの NSS ソフトウェアトークンは NSS Certificate DB です。システムが FIPS モードで実行し場合は、トークンの名前が NSS FIPS 140-2 Certificate DB になります。

  3. 選択したシナリオに応じて、nsspassword ファイルの完了後に ipsec サービスを起動または再起動します。

    # systemctl restart ipsec

検証

  1. NSS データベースに空でないパスワードを追加した後に、ipsec サービスが実行中であることを確認します。

    # systemctl status ipsec
    ● ipsec.service - Internet Key Exchange (IKE) Protocol Daemon for IPsec
       Loaded: loaded (/usr/lib/systemd/system/ipsec.service; enabled; vendor preset: disable>
       Active: active (running)...
  2. 必要に応じて、初期化の成功を示すエントリーが Journal ログに含まれていることを確認します。

    # journalctl -u ipsec
    ...
    pluto[6214]: Initializing NSS using read-write database "sql:/etc/ipsec.d"
    pluto[6214]: NSS Password from file "/etc/ipsec.d/nsspassword" for token "NSS Certificate DB" with length 20 passed to NSS
    pluto[6214]: NSS crypto library initialized
    ...

関連情報

21.3.10. TCP を使用するように IPsec VPN を設定

Libreswan は、RFC 8229 で説明されているように、IKE パケットおよび IPsec パケットの TCP カプセル化に対応します。この機能により、UDP 経由でトラフィックが転送されないように、IPsec VPN をネットワークに確立し、セキュリティーのペイロード (ESP) を強化できます。フォールバックまたはメインの VPN トランスポートプロトコルとして TCP を使用するように VPN サーバーおよびクライアントを設定できます。TCP カプセル化にはパフォーマンスコストが大きくなるため、UDP がシナリオで永続的にブロックされている場合に限り、TCP を主な VPN プロトコルとして使用してください。

前提条件

手順

  1. config setup セクションの /etc/ipsec.conf ファイルに以下のオプションを追加します。

    listen-tcp=yes
  2. UDP で最初の試行に失敗した場合に TCP カプセル化をフォールバックオプションとして使用するには、クライアントの接続定義に以下の 2 つのオプションを追加します。

    enable-tcp=fallback
    tcp-remoteport=4500

    または、UDP を永続的にブロックしている場合は、クライアントの接続設定で以下のオプションを使用します。

    enable-tcp=yes
    tcp-remoteport=4500

21.3.11. IPsec 接続を高速化するために、ESP ハードウェアオフロードの自動検出と使用を設定

Encapsulating Security Payload (ESP) をハードウェアにオフロードすると、Ethernet で IPsec 接続が加速します。デフォルトでは、Libreswan は、ハードウェアがこの機能に対応しているかどうかを検出するため、ESP ハードウェアのオフロードを有効にします。機能が無効になっているか、明示的に有効になっている場合は、自動検出に戻すことができます。

前提条件

  • ネットワークカードは、ESP ハードウェアオフロードに対応します。
  • ネットワークドライバーは、ESP ハードウェアのオフロードに対応します。
  • IPsec 接続が設定され、動作する。

手順

  1. ESP ハードウェアオフロードサポートの自動検出を使用する接続の /etc/ipsec.d/ ディレクトリーにある Libreswan 設定ファイルを編集します。
  2. 接続の設定で nic-offload パラメーターが設定されていないことを確認します。
  3. nic-offload を削除した場合は、ipsec を再起動します。

    # systemctl restart ipsec

検証

ネットワークカードが ESP ハードウェアオフロードサポートに対応している場合は、以下の手順に従って結果を検証します。

  1. IPsec 接続が使用するイーサネットデバイスの tx_ipsec および rx_ipsec カウンターを表示します。

    # ethtool -S enp1s0 | egrep "_ipsec"
         tx_ipsec: 10
         rx_ipsec: 10
  2. IPsec トンネルを介してトラフィックを送信します。たとえば、リモート IP アドレスに ping します。

    # ping -c 5 remote_ip_address
  3. イーサネットデバイスの tx_ipsec および rx_ipsec カウンターを再度表示します。

    # ethtool -S enp1s0 | egrep "_ipsec"
         tx_ipsec: 15
         rx_ipsec: 15

    カウンターの値が増えると、ESP ハードウェアオフロードが動作します。

21.3.12. IPsec 接続を加速化するためにボンディングでの ESP ハードウェアオフロードの設定

Encapsulating Security Payload (ESP) をハードウェアにオフロードすると、IPsec 接続が加速します。フェイルオーバーの理由でネットワークボンディングを使用する場合、ESP ハードウェアオフロードを設定する要件と手順は、通常のイーサーネットデバイスを使用する要件と手順とは異なります。たとえば、このシナリオでは、ボンディングでオフロードサポートを有効にし、カーネルはボンディングのポートに設定を適用します。

前提条件

  • ボンディングのすべてのネットワークカードが、ESP ハードウェアオフロードをサポートしている。
  • ネットワークドライバーが、ボンドデバイスで ESP ハードウェアオフロードに対応している。RHEL では、ixgbe ドライバーのみがこの機能をサポートします。
  • ボンディングが設定されており動作する。
  • ボンディングで active-backup モードを使用している。ボンディングドライバーは、この機能の他のモードはサポートしていません。
  • IPsec 接続が設定され、動作する。

手順

  1. ネットワークボンディングで ESP ハードウェアオフロードのサポートを有効にします。

    # nmcli connection modify bond0 ethtool.feature-esp-hw-offload on

    このコマンドにより、bond0 接続での ESP ハードウェアオフロードのサポートが有効になります。

  2. bond0 接続を再度アクティブにします。

    # nmcli connection up bond0
  3. ESP ハードウェアオフロードに使用すべき接続の /etc/ipsec.d/ ディレクトリーにある Libreswan 設定ファイルを編集し、nic-offload=yes ステートメントを接続エントリーに追加します。

    conn example
        ...
        nic-offload=yes
  4. ipsec サービスを再起動します。

    # systemctl restart ipsec

検証

  1. ボンディングのアクティブなポートを表示します。

    # grep "Currently Active Slave" /proc/net/bonding/bond0
    Currently Active Slave: enp1s0
  2. アクティブなポートの tx_ipsec カウンターおよび rx_ipsec カウンターを表示します。

    # ethtool -S enp1s0 | egrep "_ipsec"
         tx_ipsec: 10
         rx_ipsec: 10
  3. IPsec トンネルを介してトラフィックを送信します。たとえば、リモート IP アドレスに ping します。

    # ping -c 5 remote_ip_address
  4. アクティブなポートの tx_ipsec カウンターおよび rx_ipsec カウンターを再度表示します。

    # ethtool -S enp1s0 | egrep "_ipsec"
         tx_ipsec: 15
         rx_ipsec: 15

    カウンターの値が増えると、ESP ハードウェアオフロードが動作します。

関連情報

21.3.13. システム全体の暗号化ポリシーをオプトアウトする IPsec 接続の設定

接続向けのシステム全体の暗号化ポリシーのオーバーライド

RHEL のシステム全体の暗号化ポリシーでは、%default と呼ばれる特別な接続が作成されます。この接続には、ikev2 オプション、esp オプション、および ike オプションのデフォルト値が含まれます。ただし、接続設定ファイルに上記のオプションを指定すると、デフォルト値を上書きできます。

たとえば、次の設定では、AES および SHA-1 または SHA-2 で IKEv1 を使用し、AES-GCM または AES-CBC で IPsec (ESP) を使用する接続が可能です。

conn MyExample
  ...
  ikev2=never
  ike=aes-sha2,aes-sha1;modp2048
  esp=aes_gcm,aes-sha2,aes-sha1
  ...

AES-GCM は IPsec (ESP) および IKEv2 で利用できますが、IKEv1 では利用できません。

全接続向けのシステム全体の暗号化ポリシーの無効化

すべての IPsec 接続のシステム全体の暗号化ポリシーを無効にするには、/etc/ipsec.conf ファイルで次の行をコメントアウトします。

include /etc/crypto-policies/back-ends/libreswan.config

次に、接続設定ファイルに ikev2=never オプションを追加してください。

21.3.14. IPsec VPN 設定のトラブルシューティング

IPsec VPN 設定に関連する問題は主に、一般的な理由が原因で発生する可能性が高くなっています。このような問題が発生した場合は、問題の原因が以下のシナリオのいずれかに該当するかを確認して、対応するソリューションを適用します。

基本的な接続のトラブルシューティング

VPN 接続関連の問題の多くは、管理者が不適当な設定オプションを指定してエンドポイントを設定した新しいデプロイメントで発生します。また、互換性のない値が新たに実装された場合に、機能していた設定が突然動作が停止する可能性があります。管理者が設定を変更した場合など、このような結果になることがあります。また、管理者が暗号化アルゴリズムなど、特定のオプションに異なるデフォルト値を使用して、ファームウェアまたはパッケージの更新をインストールした場合などです。

IPsec VPN 接続が確立されていることを確認するには、次のコマンドを実行します。

# ipsec trafficstatus
006 #8: "vpn.example.com"[1] 192.0.2.1, type=ESP, add_time=1595296930, inBytes=5999, outBytes=3231, id='@vpn.example.com', lease=100.64.13.5/32

出力が空の場合や、エントリーで接続名が表示されない場合など、トンネルが破損します。

接続に問題があることを確認するには、以下を実行します。

  1. vpn.example.com 接続をもう一度読み込みます。

    # ipsec auto --add vpn.example.com
    002 added connection description "vpn.example.com"
  2. 次に、VPN 接続を開始します。

    # ipsec auto --up vpn.example.com

ファイアウォール関連の問題

最も一般的な問題は、IPSec エンドポイントの 1 つ、またはエンドポイント間にあるルーターにあるファイアウォールで Internet Key Exchange (IKE) パケットがドロップされるという点が挙げられます。

  • IKEv2 の場合には、以下の例のような出力は、ファイアウォールに問題があることを示しています。

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    181 "vpn.example.com"[1] 192.0.2.2 #15: initiating IKEv2 IKE SA
    181 "vpn.example.com"[1] 192.0.2.2 #15: STATE_PARENT_I1: sent v2I1, expected v2R1
    010 "vpn.example.com"[1] 192.0.2.2 #15: STATE_PARENT_I1: retransmission; will wait 0.5 seconds for response
    010 "vpn.example.com"[1] 192.0.2.2 #15: STATE_PARENT_I1: retransmission; will wait 1 seconds for response
    010 "vpn.example.com"[1] 192.0.2.2 #15: STATE_PARENT_I1: retransmission; will wait 2 seconds for
    ...
  • IKEv1 の場合は、最初のコマンドの出力は以下のようになります。

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    002 "vpn.example.com" #9: initiating Main Mode
    102 "vpn.example.com" #9: STATE_MAIN_I1: sent MI1, expecting MR1
    010 "vpn.example.com" #9: STATE_MAIN_I1: retransmission; will wait 0.5 seconds for response
    010 "vpn.example.com" #9: STATE_MAIN_I1: retransmission; will wait 1 seconds for response
    010 "vpn.example.com" #9: STATE_MAIN_I1: retransmission; will wait 2 seconds for response
    ...

IPsec の設定に使用される IKE プロトコルは暗号化されているため、tcpdump ツールを使用して、トラブルシューティングできるサブセットは一部のみです。ファイアウォールが IKE パケットまたは IPsec パケットをドロップしている場合は、tcpdump ユーティリティーを使用して原因を見つけることができます。ただし、tcpdump は IPsec VPN 接続に関する他の問題を診断できません。

  • eth0 インターフェイスで VPN および暗号化データすべてのネゴシエーションを取得するには、次のコマンドを実行します。

    # tcpdump -i eth0 -n -n esp or udp port 500 or udp port 4500 or tcp port 4500

アルゴリズム、プロトコル、およびポリシーが一致しない場合

VPN 接続では、エンドポイントが IKE アルゴリズム、IPsec アルゴリズム、および IP アドレス範囲に一致する必要があります。不一致が発生した場合には接続は失敗します。以下の方法のいずれかを使用して不一致を特定した場合は、アルゴリズム、プロトコル、またはポリシーを調整して修正します。

  • リモートエンドポイントが IKE/IPsec を実行していない場合は、そのパケットを示す ICMP パケットが表示されます。以下に例を示します。

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    ...
    000 "vpn.example.com"[1] 192.0.2.2 #16: ERROR: asynchronous network error report on wlp2s0 (192.0.2.2:500), complainant 198.51.100.1: Connection refused [errno 111, origin ICMP type 3 code 3 (not authenticated)]
    ...
  • IKE アルゴリズムが一致しない例:

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    ...
    003 "vpn.example.com"[1] 193.110.157.148 #3: dropping unexpected IKE_SA_INIT message containing NO_PROPOSAL_CHOSEN notification; message payloads: N; missing payloads: SA,KE,Ni
  • IPsec アルゴリズムが一致しない例:

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    ...
    182 "vpn.example.com"[1] 193.110.157.148 #5: STATE_PARENT_I2: sent v2I2, expected v2R2 {auth=IKEv2 cipher=AES_GCM_16_256 integ=n/a prf=HMAC_SHA2_256 group=MODP2048}
    002 "vpn.example.com"[1] 193.110.157.148 #6: IKE_AUTH response contained the error notification NO_PROPOSAL_CHOSEN

    また、IKE バージョンが一致しないと、リモートエンドポイントが応答なしの状態でリクエストをドロップする可能性がありました。これは、すべての IKE パケットをドロップするファイアウォールと同じです。

  • IKEv2 (Traffic Selectors - TS) の IP アドレス範囲が一致しない例:

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    ...
    1v2 "vpn.example.com" #1: STATE_PARENT_I2: sent v2I2, expected v2R2 {auth=IKEv2 cipher=AES_GCM_16_256 integ=n/a prf=HMAC_SHA2_512 group=MODP2048}
    002 "vpn.example.com" #2: IKE_AUTH response contained the error notification TS_UNACCEPTABLE
  • IKEv1 の IP アドレス範囲で一致しない例:

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    ...
    031 "vpn.example.com" #2: STATE_QUICK_I1: 60 second timeout exceeded after 0 retransmits.  No acceptable response to our first Quick Mode message: perhaps peer likes no proposal
  • IKEv1 で PreSharedKeys (PSK) を使用する場合には、どちらでも同じ PSK に配置されなければ、IKE メッセージ全体の読み込みができなくなります。

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    ...
    003 "vpn.example.com" #1: received Hash Payload does not match computed value
    223 "vpn.example.com" #1: sending notification INVALID_HASH_INFORMATION to 192.0.2.23:500
  • IKEv2 では、 mismatched-PSK エラーが原因で AUTHENTICATION_FAILED メッセージが表示されます。

    # ipsec auto --up vpn.example.com
    ...
    002 "vpn.example.com" #1: IKE SA authentication request rejected by peer: AUTHENTICATION_FAILED

最大伝送単位 (MTU)

ファイアウォールが IKE または IPSec パケットをブロックする以外で、ネットワークの問題の原因として、暗号化パケットのパケットサイズの増加が最も一般的です。ネットワークハードウェアは、最大伝送単位 (MTU) を超えるパケットを 1500 バイトなどのサイズに断片化します。多くの場合、断片化されたパケットは失われ、パケットの再アセンブルに失敗します。これにより、小さいサイズのパケットを使用する ping テスト時には機能し、他のトラフィックでは失敗するなど、断続的な問題が発生します。このような場合に、SSH セッションを確立できますが、リモートホストに 'ls -al /usr' コマンドに入力した場合など、すぐにターミナルがフリーズします。

この問題を回避するには、トンネル設定ファイルに mtu=1400 のオプションを追加して、MTU サイズを縮小します。

または、TCP 接続の場合は、MSS 値を変更する iptables ルールを有効にします。

# iptables -I FORWARD -p tcp --tcp-flags SYN,RST SYN -j TCPMSS --clamp-mss-to-pmtu

各シナリオで上記のコマンドを使用して問題が解決されない場合は、set-mss パラメーターで直接サイズを指定します。

# iptables -I FORWARD -p tcp --tcp-flags SYN,RST SYN -j TCPMSS --set-mss 1380

ネットワークアドレス変換 (NAT)

IPsec ホストが NAT ルーターとしても機能すると、誤ってパケットが再マッピングされる可能性があります。以下の設定例はこの問題について示しています。

conn myvpn
    left=172.16.0.1
    leftsubnet=10.0.2.0/24
    right=172.16.0.2
    rightsubnet=192.168.0.0/16
…

アドレスが 172.16.0.1 のシステムには NAT ルールが 1 つあります。

iptables -t nat -I POSTROUTING -o eth0 -j MASQUERADE

アドレスが 10.0.2.33 のシステムがパケットを 192.168.0.1 に送信する場合に、ルーターは IPsec 暗号化を適用する前にソースを 10.0.2.33 から 172.16.0.1 に変換します。

次に、ソースアドレスが 10.0.2.33 のパケットは conn myvpn 設定と一致しなくなるので、IPsec ではこのパケットが暗号化されません。

この問題を解決するには、ルーターのターゲット IPsec サブネット範囲の NAT を除外するルールを挿入します。以下に例を示します。

iptables -t nat -I POSTROUTING -s 10.0.2.0/24 -d 192.168.0.0/16 -j RETURN

カーネル IPsec サブシステムのバグ

たとえば、バグが原因で IKE ユーザー空間と IPsec カーネルの同期が解除される場合など、カーネル IPsec サブシステムに問題が発生する可能性があります。このような問題がないかを確認するには、以下を実行します。

$ cat /proc/net/xfrm_stat
XfrmInError                 0
XfrmInBufferError           0
...

上記のコマンドの出力でゼロ以外の値が表示されると、問題があることを示しています。この問題が発生した場合は、新しい サポートケース を作成し、1 つ前のコマンドの出力と対応する IKE ログを添付してください。

Libreswan のログ

デフォルトでは、Libreswan は syslog プロトコルを使用してログに記録します。journalctl コマンドを使用して、IPsec に関連するログエントリーを検索できます。ログへの対応するエントリーは pluto IKE デーモンにより送信されるため、以下のように、キーワード pluto を検索します。

$ journalctl -b | grep pluto

ipsec サービスのライブログを表示するには、次のコマンドを実行します。

$ journalctl -f -u ipsec

ロギングのデフォルトレベルで設定問題が解決しない場合は、/etc/ipsec.conf ファイルの config setup セクションに plutodebug=all オプションを追加してデバッグログを有効にします。

デバッグロギングは多くのエントリーを生成し、journald サービスまたは syslogd サービスレートのいずれかが syslog メッセージを制限する可能性があることに注意してください。完全なログを取得するには、ロギングをファイルにリダイレクトします。/etc/ipsec.conf を編集し、config setup セクションに logfile=/var/log/pluto.log を追加します。

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