25.3. OVN-Kubernetes ネットワークプラグインへのロールバック
クラスター管理者は、OpenShift SDN への移行が失敗した場合に、OpenShift SDN ネットワークプラグインから OVN-Kubernetes ネットワークプラグインにロールバックできます。
OVN-Kubernetes の詳細は、OVN-Kubernetes ネットワークプラグインについて を参照してください。
25.3.1. OVN-Kubernetes ネットワークプラグインへの移行
クラスター管理者は、クラスターのネットワークプラグインを OVN-Kubernetes に変更できます。移行時に、クラスター内のすべてのノードを再起動する必要があります。
移行の実行中はクラスターを利用できず、ワークロードが中断される可能性があります。サービスの中断が許容可能な場合にのみ移行を実行します。
前提条件
- ネットワークポリシー分離モードの OpenShift SDN CNI ネットワークプラグインで設定されたクラスターがある。
-
OpenShift CLI (
oc
) がインストールされている。 -
cluster-admin
ロールを持つユーザーとしてクラスターにアクセスできる。 - etcd データベースの最新のバックアップがある。
- 各ノードを手動で再起動できる。
- クラスターがエラーのない既知の良好な状態にあることを確認している。
-
すべてのクラウドプラットフォーム上のすべてのノードに対してポート
6081
上の User Datagram Protocol (UDP) パケットを許可するセキュリティーグループルールを作成している。 -
Webhook のすべてのタイムアウトを
3
秒に設定しているか、Webhook を削除している。
手順
クラスターネットワークの設定のバックアップを作成するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc get Network.config.openshift.io cluster -o yaml > cluster-openshift-sdn.yaml
次のコマンドを実行して、
OVN_SDN_MIGRATION_TIMEOUT
環境変数が設定され、0s
になっていることを確認します。#!/bin/bash if [ -n "$OVN_SDN_MIGRATION_TIMEOUT" ] && [ "$OVN_SDN_MIGRATION_TIMEOUT" = "0s" ]; then unset OVN_SDN_MIGRATION_TIMEOUT fi #loops the timeout command of the script to repeatedly check the cluster Operators until all are available. co_timeout=${OVN_SDN_MIGRATION_TIMEOUT:-1200s} timeout "$co_timeout" bash <<EOT until oc wait co --all --for='condition=AVAILABLE=True' --timeout=10s && \ oc wait co --all --for='condition=PROGRESSING=False' --timeout=10s && \ oc wait co --all --for='condition=DEGRADED=False' --timeout=10s; do sleep 10 echo "Some ClusterOperators Degraded=False,Progressing=True,or Available=False"; done EOT
次のコマンドを実行して、Cluster Network Operator (CNO) 設定オブジェクトから設定を削除します。
$ oc patch Network.operator.openshift.io cluster --type='merge' \ --patch '{"spec":{"migration":null}}'
.以下の手順を実行して、OpenShift SDN ネットワークプラグインのプライマリーネットワークインターフェイスを定義する
NodeNetworkConfigurationPolicy
(NNCP) カスタムリソース (CR) を削除します。次のコマンドを入力して、既存の NNCP CR がプライマリーインターフェイスをクラスターにボンディングしていることを確認します。
$ oc get nncp
出力例
NAME STATUS REASON bondmaster0 Available SuccessfullyConfigured
Network Manager は、ボンディングされたプライマリーインターフェイスの接続プロファイルを
/etc/NetworkManager/system-connections
システムパスに保存します。クラスターから NNCP を削除します。
$ oc delete nncp <nncp_manifest_filename>
すべてのノードを移行用に準備するには、次のコマンドを実行して、CNO 設定オブジェクトの
migration
フィールドを設定します。$ oc patch Network.operator.openshift.io cluster --type='merge' \ --patch '{ "spec": { "migration": { "networkType": "OVNKubernetes" } } }'
注記この手順では、OVN-Kubernetes はすぐにデプロイしません。その代わりに、
migration
フィールドを指定すると、新規マシン設定が OVN-Kubernetes デプロイメントの準備に向けてクラスター内のすべてのノードに適用されるように Machine Config Operator (MCO) がトリガーされます。次のコマンドを実行して、再起動が完了したことを確認します。
$ oc get mcp
次のコマンドを実行して、すべてのクラスター Operator が利用可能であることを確認します。
$ oc get co
あるいは、いくつかの OpenShift SDN 機能の OVN-Kubernetes 同等機能への自動移行を無効にすることができます。
- Egress IP
- Egress ファイアウォール
- マルチキャスト
前述の OpenShift SDN 機能の設定の自動移行を無効にするには、次のキーを指定します。
$ oc patch Network.operator.openshift.io cluster --type='merge' \ --patch '{ "spec": { "migration": { "networkType": "OVNKubernetes", "features": { "egressIP": <bool>, "egressFirewall": <bool>, "multicast": <bool> } } } }'
ここでは、以下のようになります。
bool
: 機能の移行を有効にするかどうかを指定します。デフォルトはtrue
です。
オプション: ネットワークインフラストラクチャーの要件を満たすように OVN-Kubernetes の以下の設定をカスタマイズできます。
最大伝送単位 (MTU)。このオプションの手順で MTU をカスタマイズする前に、以下を考慮してください。
- デフォルトの MTU を使用しており、移行中にデフォルトの MTU を維持したい場合は、この手順を無視できます。
- カスタム MTU を使用しており、移行中にカスタム MTU を維持する必要がある場合は、この手順でカスタム MTU 値を宣言する必要があります。
移行中に MTU 値を変更する場合、この手順は機能しません。代わりに、まず「クラスター MTU の変更」に記載された指示に従う必要があります。その後、この手順を実行してカスタム MTU 値を宣言すると、カスタム MTU 値を維持できます。
注記OpenShift-SDN と OVN-Kubernetes のオーバーレイオーバーヘッドは異なります。MTU 値は、「MTU 値の選択」ページにあるガイドラインに従って選択する必要があります。
- Geneve (Generic Network Virtualization Encapsulation) オーバーレイネットワークポート
- OVN-Kubernetes IPv4 内部サブネット
- OVN-Kubernetes IPv6 内部サブネット
以前の設定のいずれかをカスタマイズするには、以下のコマンドを入力してカスタマイズします。デフォルト値を変更する必要がない場合は、パッチのキーを省略します。
$ oc patch Network.operator.openshift.io cluster --type=merge \ --patch '{ "spec":{ "defaultNetwork":{ "ovnKubernetesConfig":{ "mtu":<mtu>, "genevePort":<port>, "v4InternalSubnet":"<ipv4_subnet>", "v6InternalSubnet":"<ipv6_subnet>" }}}}'
ここでは、以下のようになります。
mtu
-
Geneve オーバーレイネットワークの MTU。この値は通常は自動的に設定されますが、クラスターにあるノードすべてが同じ MTU を使用しない場合、これを最小のノード MTU 値よりも
100
小さく設定する必要があります。 port
-
Geneve オーバーレイネットワークの UDP ポート。値が指定されない場合、デフォルトは
6081
になります。ポートは、OpenShift SDN で使用される VXLAN ポートと同じにすることはできません。VXLAN ポートのデフォルト値は4789
です。 ipv4_subnet
-
OVN-Kubernetes による内部使用のための IPv4 アドレス範囲。IP アドレス範囲が、OpenShift Container Platform インストールで使用される他のサブネットと重複しないようにする必要があります。IP アドレス範囲は、クラスターに追加できるノードの最大数より大きくする必要があります。デフォルト値は
100.64.0.0/16
です。 ipv6_subnet
-
OVN-Kubernetes による内部使用のための IPv6 アドレス範囲。IP アドレス範囲が、OpenShift Container Platform インストールで使用される他のサブネットと重複しないようにする必要があります。IP アドレス範囲は、クラスターに追加できるノードの最大数より大きくする必要があります。デフォルト値は
fd98::/48
です。
mtu
フィールドを更新するパッチコマンドの例$ oc patch Network.operator.openshift.io cluster --type=merge \ --patch '{ "spec":{ "defaultNetwork":{ "ovnKubernetesConfig":{ "mtu":1200 }}}}'
MCO がそれぞれのマシン設定プールのマシンを更新すると、各ノードが 1 つずつ再起動します。すべてのノードが更新されるまで待機する必要があります。以下のコマンドを実行してマシン設定プールのステータスを確認します。
$ oc get mcp
正常に更新されたノードには、
UPDATED=true
、UPDATING=false
、DEGRADED=false
のステータスがあります。注記デフォルトで、MCO はプールごとに一度に 1 つのマシンを更新するため、移行にかかる合計時間がクラスターのサイズと共に増加します。
ホスト上の新規マシン設定のステータスを確認します。
マシン設定の状態と適用されたマシン設定の名前をリスト表示するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc describe node | egrep "hostname|machineconfig"
出力例
kubernetes.io/hostname=master-0 machineconfiguration.openshift.io/currentConfig: rendered-master-c53e221d9d24e1c8bb6ee89dd3d8ad7b machineconfiguration.openshift.io/desiredConfig: rendered-master-c53e221d9d24e1c8bb6ee89dd3d8ad7b machineconfiguration.openshift.io/reason: machineconfiguration.openshift.io/state: Done
以下のステートメントが true であることを確認します。
-
machineconfiguration.openshift.io/state
フィールドの値はDone
です。 -
machineconfiguration.openshift.io/currentConfig
フィールドの値は、machineconfiguration.openshift.io/desiredConfig
フィールドの値と等しくなります。
-
マシン設定が正しいことを確認するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc get machineconfig <config_name> -o yaml | grep ExecStart
ここで、
<config_name>
はmachineconfiguration.openshift.io/currentConfig
フィールドのマシン設定の名前になります。マシン設定には、systemd 設定に以下の更新を含める必要があります。
ExecStart=/usr/local/bin/configure-ovs.sh OVNKubernetes
ノードが
NotReady
状態のままになっている場合、マシン設定デーモン Pod のログを調べ、エラーを解決します。Pod をリスト表示するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc get pod -n openshift-machine-config-operator
出力例
NAME READY STATUS RESTARTS AGE machine-config-controller-75f756f89d-sjp8b 1/1 Running 0 37m machine-config-daemon-5cf4b 2/2 Running 0 43h machine-config-daemon-7wzcd 2/2 Running 0 43h machine-config-daemon-fc946 2/2 Running 0 43h machine-config-daemon-g2v28 2/2 Running 0 43h machine-config-daemon-gcl4f 2/2 Running 0 43h machine-config-daemon-l5tnv 2/2 Running 0 43h machine-config-operator-79d9c55d5-hth92 1/1 Running 0 37m machine-config-server-bsc8h 1/1 Running 0 43h machine-config-server-hklrm 1/1 Running 0 43h machine-config-server-k9rtx 1/1 Running 0 43h
設定デーモン Pod の名前は以下の形式になります。
machine-config-daemon-<seq>
<seq>
値は、ランダムな 5 文字の英数字シーケンスになります。以下のコマンドを入力して、直前の出力に表示される最初のマシン設定デーモン Pod の Pod ログを表示します。
$ oc logs <pod> -n openshift-machine-config-operator
ここで、
pod
はマシン設定デーモン Pod の名前になります。- 直前のコマンドの出力で示されるログ内のエラーを解決します。
移行を開始するには、次のいずれかのコマンドを使用して OVN-Kubernetes ネットワークプラグインを設定します。
クラスターネットワークの IP アドレスブロックを変更せずにネットワークプロバイダーを指定するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc patch Network.config.openshift.io cluster \ --type='merge' --patch '{ "spec": { "networkType": "OVNKubernetes" } }'
別のクラスターネットワーク IP アドレスブロックを指定するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc patch Network.config.openshift.io cluster \ --type='merge' --patch '{ "spec": { "clusterNetwork": [ { "cidr": "<cidr>", "hostPrefix": <prefix> } ], "networkType": "OVNKubernetes" } }'
ここで、
cidr
は CIDR ブロックであり、prefix
はクラスター内の各ノードに割り当てられる CIDR ブロックのスライスです。OVN-Kubernetes ネットワークプロバイダーはこのブロックを内部で使用するため、100.64.0.0/16
CIDR ブロックと重複する CIDR ブロックは使用できません。重要移行時に、サービスネットワークのアドレスブロックを変更することはできません。
Multus デーモンセットのロールアウトが完了したことを確認してから、後続の手順を続行します。
$ oc -n openshift-multus rollout status daemonset/multus
Multus Pod の名前の形式は
multus-<xxxxx>
です。ここで、<xxxxx>
は文字のランダムなシーケンスになります。Pod が再起動するまでにしばらく時間がかかる可能性があります。出力例
Waiting for daemon set "multus" rollout to finish: 1 out of 6 new pods have been updated... ... Waiting for daemon set "multus" rollout to finish: 5 of 6 updated pods are available... daemon set "multus" successfully rolled out
ネットワークプラグインの変更を完了するには、クラスター内の各ノードを再起動します。次のいずれかの方法で、クラスター内のノードを再起動できます。
重要次のスクリプトは、クラスター内のすべてのノードを同時に再起動します。これにより、クラスターが不安定になる可能性があります。もう 1 つのオプションとして、ノードを一度に 1 つずつ手動でリブートすることもできます。ノードを 1 つずつ再起動すると、多数のノードを持つクラスターではかなりのダウンタイムが発生します。
ノードを再起動するまで、クラスター Operator は正しく動作しません。
oc rsh
コマンドでは、次のような bash スクリプトを使用できます。#!/bin/bash readarray -t POD_NODES <<< "$(oc get pod -n openshift-machine-config-operator -o wide| grep daemon|awk '{print $1" "$7}')" for i in "${POD_NODES[@]}" do read -r POD NODE <<< "$i" until oc rsh -n openshift-machine-config-operator "$POD" chroot /rootfs shutdown -r +1 do echo "cannot reboot node $NODE, retry" && sleep 3 done done
ssh
コマンドでは、次のような bash スクリプトを使用できます。このスクリプトは、パスワードの入力を求めないように sudo が設定されていることを前提としています。#!/bin/bash for ip in $(oc get nodes -o jsonpath='{.items[*].status.addresses[?(@.type=="InternalIP")].address}') do echo "reboot node $ip" ssh -o StrictHostKeyChecking=no core@$ip sudo shutdown -r -t 3 done
移行が正常に完了したことを確認します。
ネットワークプラグインが OVN-Kubernetes であることを確認するには、次のコマンドを入力します。
status.networkType
の値はOVNKubernetes
である必要があります。$ oc get network.config/cluster -o jsonpath='{.status.networkType}{"\n"}'
クラスターノードが
Ready
状態にあることを確認するには、以下のコマンドを実行します。$ oc get nodes
Pod がエラー状態ではないことを確認するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc get pods --all-namespaces -o wide --sort-by='{.spec.nodeName}'
ノードの Pod がエラー状態にある場合は、そのノードを再起動します。
すべてのクラスター Operator が異常な状態にないことを確認するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc get co
すべてのクラスター Operator のステータスは、
AVAILABLE="True"
、PROGRESSING="False"
、DEGRADED="False"
になります。クラスター Operator が利用できないか、そのパフォーマンスが低下する場合には、クラスター Operator のログで詳細を確認します。
以下の手順は、移行に成功し、クラスターの状態が正常である場合にのみ実行します。
CNO 設定オブジェクトから移行設定を削除するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc patch Network.operator.openshift.io cluster --type='merge' \ --patch '{ "spec": { "migration": null } }'
OpenShift SDN ネットワークプロバイダーのカスタム設定を削除するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc patch Network.operator.openshift.io cluster --type='merge' \ --patch '{ "spec": { "defaultNetwork": { "openshiftSDNConfig": null } } }'
OpenShift SDN ネットワークプロバイダー namespace を削除するには、以下のコマンドを入力します。
$ oc delete namespace openshift-sdn