第20章 OVN-Kubernetes ネットワークプラグイン
20.1. OVN-Kubernetes ネットワークプラグインについて
OpenShift Container Platform クラスターは、Pod およびサービスネットワークに仮想化ネットワークを使用します。
Red Hat OpenShift Networking の一部である OVN-Kubernetes ネットワークプラグインは、OpenShift Container Platform のデフォルトのネットワークプロバイダーです。OVN-Kubernetes は Open Virtual Network (OVN) をベースとしており、オーバーレイベースのネットワーク実装を提供します。OVN-Kubernetes プラグインを使用するクラスターは、各ノードで Open vSwitch (OVS) も実行します。OVN は、宣言ネットワーク設定を実装するように各ノードで OVS を設定します。
OVN-Kubernetes は、OpenShift Container Platform および単一ノードの OpenShift デプロイメントのデフォルトのネットワークソリューションです。
OVS プロジェクトから生まれた OVN-Kubernetes は、オープンフロールールなど、同じコンストラクトの多くを使用して、パケットがネットワークを通過する方法を決定します。詳細は、Open Virtual Network の Web サイト を参照してください。
OVN-Kubernetes は、仮想ネットワーク設定を OpenFlow
ルールに変換する OVS 用の一連のデーモンです。OpenFlow
は、ネットワークスイッチおよびルーターと通信するためのプロトコルです。ネットワークデバイス上のネットワークトラフィックのフローをリモートで制御する手段を提供し、ネットワーク管理者がネットワークトラフィックのフローを設定、管理、および監視できるようにします。
OVN-Kubernetes は、OpenFlow
では利用できない高度な機能をさらに提供します。OVN は、分散仮想ルーティング、分散論理スイッチ、アクセス制御、Dynamic Host Configuration Protocol (DHCP)、および DNS をサポートしています。OVN は、オープンフローと同等のロジックフロー内に分散仮想ルーターを実装します。たとえば、ネットワーク上の DHCP サーバーに DHCP 要求を送信する Pod がある場合、要求内のロジックフロールールによって OVN-Kubernetes がパケットを処理することにより、サーバーがゲートウェイ、DNS サーバー、IP アドレスなどの情報で応答できるようになります。
OVN-Kubernetes は、各ノードでデーモンを実行します。すべてのノードで実行されるデータベースおよび OVN コントローラー用のデーモンセットがあります。OVN コントローラーは、ネットワークプロバイダーの機能 (Egress IP、ファイアウォール、ルーター、ハイブリッドネットワーク、IPSEC 暗号化、IPv6、ネットワークポリシー、ネットワークポリシーログ、ハードウェアオフロード、およびマルチキャスト) をサポートするために、ノード上で Open vSwitch デーモンをプログラムします。
20.1.1. OVN-Kubernetes の目的
OVN-Kubernetes ネットワークプラグインは、Open Virtual Network (OVN) を使用してネットワークトラフィックフローを管理する、オープンソースのフル機能の Kubernetes CNI プラグインです。OVN はコミュニティーで開発され、ベンダーに依存しないネットワーク仮想化ソリューションです。OVN-Kubernetes ネットワークプラグイン:
- Open Virtual Network (OVN) を使用してネットワークトラフィックフローを管理します。OVN はコミュニティーで開発され、ベンダーに依存しないネットワーク仮想化ソリューションです。
- Ingress および Egress ルールを含む Kubernetes ネットワークポリシーのサポートを実装します。
- ノード間にオーバーレイネットワークを作成するには、VXLAN ではなく GENEVE (Generic Network Virtualization Encapsulation) プロトコルを使用します。
OVN-Kubernetes ネットワークプラグインは、OpenShift SDN よりも次の利点があります。
- サポートされているプラットフォームでの IPv6 シングルスタックおよび IPv4/IPv6 デュアルスタックネットワークの完全サポート
- Linux と Microsoft Windows の両方のワークロードによるハイブリッドクラスターのサポート
- クラスター内通信のオプションの IPsec 暗号化
- ホスト CPU から互換性のあるネットワークカードおよびデータ処理ユニット (DPU) へのネットワークデータ処理のオフロード
20.1.2. サポートされているネットワークプラグイン機能のマトリックス
Red Hat OpenShift Networking は、ネットワークプラグイン用に OpenShift SDN と OVN-Kubernetes の 2 つのオプションを提供します。以下の表は、両方のネットワークプラグインの現在の機能サポートをまとめたものです。
機能 | OpenShift SDN | OVN-Kubernetes |
---|---|---|
Egress IP | サポート対象 | サポート対象 |
Egress ファイアウォール | サポート対象 | サポート対象 [1] |
Egress ルーター | サポート対象 | サポート対象 [2] |
ハイブリッドネットワーク | サポート対象外 | サポート対象 |
クラスター内通信の IPsec 暗号化 | サポート対象外 | サポート対象 |
IPv4 シングルスタック | サポート対象 | サポート対象 |
IPv6 シングルスタック | サポート対象外 | サポート対象 [3] |
IPv4/IPv6 デュアルスタック | サポート対象外 | サポート対象 [4] |
IPv6/IPv4 デュアルスタック | サポート対象外 | サポート対象 [4] |
Kubernetes ネットワークポリシー | サポート対象 | サポート対象 |
Kubernetes ネットワークポリシーログ | サポート対象外 | サポート対象 |
ハードウェアのオフロード | サポート対象外 | サポート対象 |
マルチキャスト | サポート対象 | サポート対象 |
- Egress ファイアウォールは、OpenShift SDN では Egress ネットワークポリシーとしても知られています。これはネットワークポリシーの Egress とは異なります。
- OVN-Kubernetes の Egress ルーターはリダイレクトモードのみをサポートします。
- ベアメタルプラットフォーム上の IPv6 シングルスタックネットワーキング。
- ベアメタル、VMware vSphere (installer-provisioned infrastructure インストールのみ)、IBM Power®、IBM Z®、および RHOSP プラットフォーム上の IPv4/IPv6 または IPv6/IPv4 デュアルスタックネットワーク。
- ベアメタル、VMware vSphere (インストーラープロビジョニングインフラストラクチャーのインストールのみ)、および IBM Power® プラットフォーム上の IPv6/IPv4 デュアルスタックネットワーク。
20.1.3. OVN-Kubernetes IPv6 とデュアルスタックの制限
OVN-Kubernetes ネットワークプラグインには、次の制限があります。
デュアルスタックネットワークに設定されたクラスターでは、IPv4 と IPv6 の両方のトラフィックがデフォルトゲートウェイとして同じネットワークインターフェイスを使用する必要があります。この要件が満たされない場合には、
ovnkube-node
デーモンセットのホストにある Pod は、CrashLoopBackOff
状態になります。oc get pod -n openshift-ovn-kubernetes -l app=ovnkube-node -o yaml
のようなコマンドで Pod を表示すると、以下の出力のように、status
フィールドにデフォルトゲートウェイに関する複数のメッセージが表示されます。I1006 16:09:50.985852 60651 helper_linux.go:73] Found default gateway interface br-ex 192.168.127.1 I1006 16:09:50.985923 60651 helper_linux.go:73] Found default gateway interface ens4 fe80::5054:ff:febe:bcd4 F1006 16:09:50.985939 60651 ovnkube.go:130] multiple gateway interfaces detected: br-ex ens4
唯一の解決策は、両方の IP ファミリーがデフォルトゲートウェイに同じネットワークインターフェイスを使用するように、ホストネットワークを再設定することです。
デュアルスタックネットワーク用に設定されたクラスターの場合、IPv4 と IPv6 の両方のルーティングテーブルにデフォルトゲートウェイが含まれている必要があります。この要件が満たされない場合には、
ovnkube-node
デーモンセットのホストにある Pod は、CrashLoopBackOff
状態になります。oc get pod -n openshift-ovn-kubernetes -l app=ovnkube-node -o yaml
のようなコマンドで Pod を表示すると、以下の出力のように、status
フィールドにデフォルトゲートウェイに関する複数のメッセージが表示されます。I0512 19:07:17.589083 108432 helper_linux.go:74] Found default gateway interface br-ex 192.168.123.1 F0512 19:07:17.589141 108432 ovnkube.go:133] failed to get default gateway interface
唯一の解決策として、両方の IP ファミリーにデフォルトゲートウェイが含まれるようにホストネットワークを再設定できます。
20.1.4. セッションアフィニティー
セッションアフィニティーは、Kubernetes Service
オブジェクトに適用される機能です。<service_VIP>:<Port> に接続するたびに、トラフィックが常に同じバックエンドに負荷分散されるようにする場合は、セッションアフィニティー を使用できます。クライアントの IP アドレスに基づいてセッションアフィニティーを設定する方法など、詳細は、セッションアフィニティー を参照してください。
セッションアフィニティーのスティッキタイムアウト
OpenShift Container Platform の OVN-Kubernetes ネットワークプラグインは、最後のパケットに基づいて、クライアントからのセッションのスティッキタイムアウトを計算します。たとえば、curl
コマンドを 10 回実行すると、スティッキーセッションタイマーは最初のパケットではなく 10 番目のパケットから開始します。その結果、クライアントが継続的にサービスに接続している場合でも、セッションがタイムアウトすることはありません。タイムアウトは、timeoutSeconds
パラメーターで設定された時間、サービスがパケットを受信しなかった場合に開始されます。